ラケットパワー!…OFF 

たった今、タカさんがバーニングと叫びながら右手のテニスラケットを掲げた。
タカさんがラケットを持つと別人になる事は付き合う前から知ってたけど、なんで今このタイミングでラケット握りだしたの?

まるで暴れ牛にでもなったタカさんは、右手のラケットをブンブン振り回し出した。
あぶねっ!なんだ!?めっちゃボール投げてくるマシンの動きかよ!?


「た、タカさん!なんか知りませんけど落ち着いてくださ」

「間接キッスだあ!?まどろっこしい!ストレートに行くぜ!カモンベイベー!」

「うおっ!?タカさっ…!?」


タカさんの迫力ある顔がぐんっと近付いてきたが、私はとっさに顔を背けた。
だってあんなものすごい勢いで来られたら高確率で歯ガチッてなるだろ!痛いって!

猛烈なストレートキッスを避けたのも束の間、諦めきれなかったらしいタカさんが今一度私の唇を奪いに向かってきた。
くそっ、こうなったら!


どすこい!

「ふごっ!」


今度は両手を使って迫り来るタカさんの顔を抑え、阻止する形に。
誤って私の人差し指がタカさんの鼻の穴にブッ刺さっているが、今はそれどころではない。


「そ、そうですよ!こうやってタカさんからしてもらいたくて、でもなかなかしてもらえないから焦れったくて…あんな急かすような事…でもこんな形じゃなくって、私は…!」

カラーン

思っていたことをそのまま口にしてたら、タカさんの手からラケットが滑り落ちた。
よ、良かった。ひとまず暴走を止めることができたらしい。めちゃくちゃ恥ずかしいこと口走しっちゃったけども。

おとなしくなったタカさんの顔から手を離すと、今にも発火しそうなくらい赤面したタカさんが小さな声で言った。


「ごめん…俺って本当、意気地なしだね…」


いつもの控えめで優しいタカさんだ。
さっきのワイルドなタカさんもクレイジーで面白くて好きだけど、私はいつものタカさんが好き。


「意気地なしで結構です…」


タカさんのほっぺに手を当てて、その反対側のほっぺにキスをした。
ポカンとするタカさんの顔がますます赤くなっていくのが、なんとも愛おしい。


「次からは、今のままのタカさんからしてもらっていいですか?」

「えっ?」

「ラケット持ってる時のタカさんだと、その、勢いが良すぎて…」

「あ、ああ…そうだね…」


ラケットパワーがオンになった時のタカさんは、さっきみたいに歯止めが効かなくなるだろう。
それもいいかな!?とかマニアックな事も思っちゃうけど、やっぱり一番最初は、いつものタカさんからがいい。


「それか私からした方が」

「そっ、それは、俺の心の準備がっ!」

「ははっ!わかってますとも!ちょっと言ってみただけっす!」


私からという提案は割と本気だったが、タカさんの心の準備が出来ていないのなら仕方ない。


「気長に待ちます、私は心の準備整ってますんで!いつでもどうぞ!」

「名前ちゃん…」


とても申し訳なさそうな顔をするタカさんに、ドーンと気まずさを覚えた。
わざわざ言う事じゃないだろうに、これじゃ、ますますタカさんを急かしてしまっているじゃないか!まったく!

私は地面に落っこちていたタカさんのテニスラケットを拾い上げた。


「さあ、ラケットはナイナイしましょうかねー!」


チャックが開いたままのタカさんのカバンにラケットをしまおうとすると、腕を引かれた。


「なんですかタカさ…」


私の腕を引っ張るタカさんを振り返ると、唇に柔らかいものが当たった。

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わらびもち

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