夜明けは来る


「…今日は、来てくれてありがとう。いつでも歓迎するよ」

「うん!ファリーナさん、またたくさんお話しましょう!…その、迷惑でなかったら、私たちの家にもきてくださいね」

「ええ、今度機会がありましたら、伺いたいですわ」

 ふたりの来訪はどうなるか危ぶみもしたが、穏やかに楽しく時間は過ぎ去った。

「ファリーナ…、本当におめでとう。いちの友として祝福します。ダリウス様はとても素晴らしいお方ですから、必ずあなたを幸せにしてみせるでしょう」

「大仰だなあ、ルードは。そんな風に言われたら、何が何でも責任重大だ」

「すみません…けれど、ファリーナは私にとってとても大事な知己ですので…つい」

 ルードがいう。

 …ああ、それだけで。

 わたしくしは、救われたような気分になった。ようやく、この恋にさよならを告げれる気がした。

「ありがとう。ルード」

 なんの陰りも不安もなく微笑むことができたのはいつぶりだろうか。

「はい」

 もう、気持ちは戻ることもない。ぐちゃぐちゃに踏み荒らされた地面が乾いて、平らになるように、気持ちはすっかり穏やかだった。

「さようなら。ファリーナさん!ダリウス」

 大きく手を振って梓さんが木々の中へ消えていく。

 それに手を振り返して、ようやく完全に見えなくなった。

「…もどろうか」

「ええ」

 わたしくしはすっかり浮かれきっていた。気持ちに踏ん切りがついたこと…梓さんという新しい友ができたこと…だから、油断しきっていたのかもしれない。

 一歩、足を踏み出す。……と、その時、風が吹いた。ぐらり、と、丸い小石を踏んでしまったわたくしは体の均衡が保ちきれず、倒れこむ。

 足首に鋭い痛みと、全身を襲う軽い衝撃と、肌を叩くチクチクとしたもの…。それら全てが一度に来たものだから、何が起きたかなんてわからなかった。

 気づけば、呆然と花壇で座り込んでいた。

 ここは特に首領殿が大事にしていた箇所だと気づき、足の痛みを堪えながら立ち上がる。けれど、踏み荒らしてしまった花壇は元には戻らなかった。

「…ご、ごめんなさい」

 青い顔になって、謝罪の言葉を告げる。

「………いや、いいんだ」

 いつになく冷え切った声色にびくりと体を震わせる。
 すごく、怒っている。

 首領殿はファリーナに見向きもせずに館の中に入ってしまった。

 後にひとり、残されたファリーナは呆然と見送る。そして、状況を知り、目を閉じる。

 痛めた足首が嫌に痛かった。

 先程までの幸せな気分は風にあおられ霧散してしまったかのようだった。

(…当然ですわね、大事にしていたものを壊してしまったら…誰だって怒りますもの)

 ションボリと、潰れてしまった花壇をみやった。首領殿のように花を育てることはしていなかったファリーナにはどうすればいいのか、全く皆目検討もつかなかった。

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