二度目の来訪者


 あれから、首領殿はわたくしに対して口を聞いてくれない。それどころか、避けられてしまっているようだった。

(どうしてでしょうか…やはり、あのことを怒られているのでしょうか)

 それぐらいしか心当たりがない。

 食事だといっても、部屋に置いて欲しいと言われるのみで、食事を介して会話することもままならない。

 何度も謝ろうとするけれども、それを察してか、いつもいつも逃げられてしまう。

 打つ手がなかった。

(ようやく、少しづつ打ち解けられたと思いましたのに…)

 これでは、以前とまるっきり同じだ。

 ため息をつく。ひとりでいると思考がどんどん暗い方へよっていってしまう。いけない、と思うのにずぶずぶととどまることを知らない。

 頬をペチペチと叩いて、思考を切り替える。

 今日の夕ご飯は豆のポタージュにしよう。

 やるべきことはたくさんある。

 豆が入ったかごを片手に裏口に出る。すると、自分と首領殿以外誰もいないはずの静かな森から、賑やかな気配を感じた。

 この間のふたりとは明らかに違う人間だ。彼らはこの森を熟知しているようで、迷うことなく、こちらに近づいてくる。

 だれだろう。

「政虎さん〜そうすねないでよ〜一緒に行こう?」

「うるせーなぁ。そうこういっているうちについちまった…じゃねえ、か」

 はた、といあわせる。久しぶりの他人という存在に、恐怖を覚えると同時に、話し相手ができたという嬉しさがないまぜになる。
 ここのところ、ずっと一人で寂しかったのだ。
 けれど、わたくしたちに害する存在かも知れない。そうおもうと、緊張が走る。

 自然、身をこわばらせたファリーナに気づいたのか、茜色の長い髪の人が人懐こそうな顔で話しかけてくる。

「うわぁ〜綺麗な人だなぁ。あなた、ダリウスさんから聞いていた奥さんでしょ?」

 ぱちぱち、と目を瞬かせる。

「アホが、びっくりしているじゃねぇか。…なぁ、奥さん。オレといいことしない?」

「ちょっと、ダメだよ。そんなこと言ったら、もっと…」

 わちゃわちゃと仲よさげに会話しているふたりを見て、見知らぬ他人だというのに、なぜだか、ホッとした。

 この館は…ひどく、静かで冷たいものだったから。

「…初めまして。ダリウスさまのご友人でございましょうか?」

「うん。友人というか〜元雇われ人?」

「そうなのでございますか。生憎ですが、いまダリウスさまはいらっしゃらないのです…、ご帰宅になるまでお待ちになられてもよろしいでしょうか?」

「あ、いいの?嬉しいなぁ。ダリウスさんが帰ってくるまでこんな綺麗な人と二人きりでいられるなんて」

「おい、オレを抜かしてんじゃねえぞ」

「あははっ、政虎さんも一緒におしゃべりしよ?ね、いいでしょ?え〜っと、あなたのお名前はなんていうのかな」

「あ、わたくしは…ファリーナ、と申します」

「ファリーナさんか〜素敵な名前だね。おれはコハクって言うんだ。隣の怖そうな人は政虎さん」

「だれが、怖そうだって?」

 がるる、と唸る。

 こころが、ほぐれていくようだった。

 思わず笑う。

「…コハク、政虎、来ていたのか」

「あ、ダリウスさん〜お久しぶりです!」

「久しぶり、元気そうで良かったよ。館でゆっくり話でもしようか」

「おう、うまいもん頼むな。ファリーナ」

「わかりましたわ」

 頷いた。それに、首領殿は何も言わず、押し黙っていた。

「お茶の準備が終わりました」

「わぁ〜ありがとう!ファリーナさん」

「…っち、もっと食べごたえのあるもんの方が良かったな…」

「せっかく用意してくれたんだから、文句言わないの。ほら、このお菓子なんてすごく美味しそうだよ…って、もう食べてるし」

「うめぇ」

「あっ、ちょっと、全部食べないでよ。おれも食べたいんだから〜」

「ファリーナ、下がっていなさい」

「……わかり、ましたわ。では、皆様、ごゆっくり」

 少し頭を下げて、その部屋を出る。もうすこし、あの二人と話していたかったけれども、追い出されてしまっては何も言うことはできない。

「……」

 扉を閉じる際に、気遣わしげにコハクさんが見ていた。
 それに、眉尻を下げて、会釈した。

 未練を断ち切るように、扉を閉ざす。

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