むざんにちって


 あれからルードと話していない。
 幼なじみでもあり、婚約者という関係上、ずっと顔を突き合わせていれば、仲違いすることだってある。
 いつもそんなときは、どちらともが寂しくなってごめんね、といって元に戻る。けれど、これは喧嘩と言っていいものなのかわからなかった。
 ごめんねと言ったら、謝るなと言われたらどうすればいいのだろうか。

 困りきって、眉尻を下げる。

 手にはすっかり萎れたつくりかけの、げんげのはなかんむり。

 自分が弄んだせいですっかり萎れてしまった花に、ごめんねと謝る。家に帰って水に挿したら復活するだろうか。
 それを膝に置いて、また新しい花を摘み始める。厳しい授業の合間に気晴らしになればと草原に出たが、全く気分は晴れなかった。
 一人で黙々と編んでいても、全く面白くない。

 惰性で編み続ける。しばらく集中していると、影がさした。太陽に雲がかかったから暗くなったのだろうかと頭を上げると……。
 ルードが立っていた。

 会いたさに自分が幻覚を作ってしまったのだろうか。そう思ってしまった。けれど、すぐに違う、とわかった。彼は…現実だ。

「ルード…」

 喉がカラカラだ。声がかすれる。彼は、許してくれたのだろうか。
 許すもなにも何を許すのか、わからないけれど。この気まずい関係に終止符をうってくれるのだろうか。

 どうあれ、来てわたくしに近づいてくれたことが嬉しかった。

「ルード?一緒にはなかんむりを編みませんか?」

「……っ、いいの、ですか?」

 ファリーナがそうやって声をかけてくるのを意外に思ったのだろう。
ルードハーネはためらったように返事をした。

「当然です。だって、ルードはわたくしの 輩 〔 ともがら 〕 ですもの」

 こんなことで揺らがないでしょう?

「……そう、ですね。あなたは、何も知らない」

 風が草原に吹き抜ける。草のさざめく音で声がかき消される。こんなにも近くにいるのに。
 強い風は、ファリーナの長い髪をいたずらに弄ぶ。

「きゃっ……!」

 膝に置いた萎れたはなかんむりが風に飛ばされ、解けてバラバラになってしまう。

 バラバラになったげんげがはらり、はらり、と舞い落ちる。

「大丈夫ですか、ファリーナ」

「ええ…ひどい風」

 ルードがこちらに手を伸ばす。けれど、それはファリーナには触れることなく、頭を指さしていった。

「蓮華が髪についていますよ」

「あら…、ありがとう」

 指し占める指に従えば、手には萎れたげんげ。くたくたになったそれはいっそ哀れなほどだった。

「誘ってくださり、ありがたいのですが…この天気です。今日はもう帰りましょう」

「……そう、ね」

 風がまた吹く。

 手に持っていたげんげは風に吹き飛ばされ、どこかに行ってしまった。

 風が吹く。

 ファリーナとルードハーネの間に。

 風が吹き続けている。

「…帰りましょう」

 ぽつり、と呟いた。
 こんなひどい風の中では何もできやしない。
 そして、悟った。
 もう、以前のような無邪気な関係ではいられなくなってしまったのだと。

 ルードはずんずんと先に進む。
 大人になるにつれて、いろいろなものを見聞きする。その中には、けっして良いものばかりではないのだ。
 真綿にくるまれるように守られた肌に、冷たい風はひどく痛かった。

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