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「おい、それ後!これ5番テーブル先運べ」

『はい!』

「テーブル片付けとくからレジ行ってこい」

『は、はい!』

「それ昨日も間違えたやろ、これど う す ん ね ん ?」

『すみません!』


この会話が延々と繰り返される店内。
ええそうです。錦戸さんです。
温かい料理を温かいうちに運ぶのは当然のこと。それがバイトをはじめたばかりの私にはまだ難しいことですんなりと出来ずに苦労してしまう。もちろん、入って日が浅いのですぐ出来ないことを怒られているわけではないのだが強面の方の笑顔の圧力と慣れない動きに息をつく暇もない。働くという事、お金を稼ぐということの大変さを身をもって感じる大学生活です。

このカフェは住宅街の中ひっそりと佇んではいるが人気の店のようで週末となるとお客さんの足は途絶える事がなく、今日は時間を忘れるくらい忙しい日となった。
それも納得せざるを得ないのは3人の顔面偏差値の高さと提供される料理やケーキの美味しさ故。



「分からんのやったら何度でも教えたるから早よ聞きに来い!」

『…はいスミマセン』

「返事に覇気がない!」

『ハイ!すみません!!』


意外と体育会系のノリで錦戸さんにつきしたがって2週間。しかもホール担当ではない錦戸さんからの指導に戸惑う事もあるけれど業務が遅い私を気遣ってさりげなくフォローをしてもらってるのは分かっているので感謝。


「大丈夫、亮ちゃん俺の時容赦なかったから」

『すみません、覚え悪くて』

「焼きコ、なにボサッと座ってんねん」

『ハイなんでしょう!』

「カレーのお皿準備しろ!」

『あ、もう出しました』

「え、あ、…そう」

『はい』

「…やればできるやん」

『…!』



でもたまにこうして褒めてくれます。

ツンデレ!いや、飴とムチ?

強面で口調も強めですが褒めるところは褒めてくれる先輩です。錦戸さんの目がすごい可愛い形だと今日気づきました。

いつも怖い(って言うよりキレてる)顔してるからツリ目かと思っていたんだけど、可愛かったんです。そんな目なのに迫力があるっていうのはすごいと思う。冗談じゃなく、キセキですねこれは。



「焼きコちゃん、一人で踊ってたらまた怒られるで」

『…は!すみません』





「いやー、忙しかったね」

『ふうー…』



今はさっきまでが嘘のようにお客さんが引いてガランとしている。いわゆるアイドルタイムである。大倉さん曰く、今日は近所で何か催しがあったせいでお昼に人が多かったらしい。こんないそがしい事は滅多にないんだとか。



「焼きコちゃん」

『はい』

「亮ちゃん厳しいけど、鬼ちゃうからね」

『…りょう、ちゃん』

「そう!錦戸亮やからりょーちゃん」



強面だけど褒めてはくれる可愛い目を持つ亮ちゃんさん。ふふ、ちゃん付けとは意外だった。結局手伝ってくれる錦戸さんは優しい人だとは頭で理解はするもののでもあの顔で怒鳴られたらやっぱり怖い。



「これからがんばろなー。」

『ありがとうございます』



あぁ、癒される。
なんてにっこり微笑み返していると響き渡る声にまた落ち着けた腰を素早くあげることになる。


「何してんねん、夜の仕度で今のうちにできることあるやろ!」

『はいいいいい』


私の鬼コーチは今日も効率よくをモットーにビシバシご指導くださいます。


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