電子パネルに5階を示す数字が映り、軽快な音と共に扉が開いた。

その瞬間乗り込んできたのは、片目に眼帯をつけ、狼のような風貌をした天人であった。先に乗っていた神威に気付いた様子で、片手を上げるとその先には金が眩しいフックが光る。まるで海賊を具現化したような恰好の狼に翠は目を瞬かせた。


『おう、第七師団も帰ってたのか』
『やあ、勾狼団長』
『…ん?おっ、いい女連れてるじゃねェか神威!噂の第一部隊隊長か?』


興味津々、と言わんばかりに顔を近付けてくる狼から視線を逸らす。


『で、実際どれくらい強いんだ?聞けば”あの星”から連れ帰ったらしいが』
『舐めてかかると返り討ちに遭いますよ』
『ガハハハハ!神威の女に手を出そうなんて命知らず、ここにゃいねェよ』


豪快な笑い声が響く中、再び目的の階に到着したことを告げる音が鳴る。気付いた翠が降りるよりも先に、神威が彼女の手を引いた。


『それじゃ俺達はここで』
『おう、合同任務の時にゃ頼りにしてるぜ』


そのまま振り向きもせずに歩き出す神威の後をついて行けば、初めて母艦に踏み入れた際にエレベーターの中から見た光景が今度はすぐ目の前に広がっていた。宇宙船の中だというのに、両側に広がる施設はどこも賑わいを見せている。
見慣れない天人たちの間を通り、手を引かれるがまま店に足を踏み入れれば、そこにはソファやベッド、机や椅子が所狭しと並んでいた。無難なインテリアが並ぶ店内を進みながら、翠は疑問を投げかける。


「ここで買って、部屋まで運べと?」
『頼めば全部やってくれるよ。運搬も設置も、いらなくなった家具の処分までね』


あまりにも便利な機能に驚いていれば、前を歩く神威が突然ソファに腰を下ろした。


『あ、これいいかも。ねえ、これ買わない?』
「私の許可なんて取らなくても、勝手に買えばいいだろう」
『翠の部屋に置くのに?』
「何故そうなる」
『でもほら、翠も座ってみてよ』


座り心地の確認を催促する神威に呆れながら、仕方なく隣に腰掛ける。その瞬間真っ白なソファは翠の体重を吸収し、反発することなくふんわりと沈んだ。擬音で例えれば「ふかふか」なそれに、翠は驚いて目を瞬いた。何度か重心を移動させれば、その都度フィットするように自由自在に形を変える。


「まあ、買っておいて損はないかもしれないな」


そう言えば神威は満足したように笑った。



―――



それから無事に買い物を終えた二人が再びエレベーターホールに向かうと突然背後から神威を呼び止める声が聞こえた。


『神威、帰ってたのね!連絡くれても良かったのに…あら、そちらの方は?』


途端に鋭い視線を感じた翠は肩を竦める。


『うちの新しい特攻隊長』
『…ふうん、そう。ところで神威、次はいつ会えるの?今日は空いてない?』


興味を失ったのかすぐさま逸らされる視線。あからさますぎて少し笑える。


「先に戻ってるからな」


あとはどうぞごゆっくり、と踵を返したところで腕を掴まれていることに気付き、仕方なく振り返る。


『俺も戻るよ』
『えっ神威?』
「お前はまだ話の途中だろう」
『じゃ、そういうことだから』


呆然としていた女がようやく状況を飲み込めたのか、翠を鋭く睨み付けてくる。

隣で笑う神威にひくりと頬を引き攣らせる。


「うまいこと使ったな」
『あの女面倒臭かったからね。翠がいてくれて助かったよ』
「…」


上機嫌で前を歩く神威を見て、改めて厄介な男に捕まったものだと息を吐いた。

TOP