その日、第七師団の戦艦は一週間ぶりに宇宙を航行していた。

何でも、転生郷関連で得た利益の詳細を春雨には報告せず、その一部を自分たちの利益として横領していた末端組織が行方をくらませたのだという。


「それで、私は何をすれば?」


事務室で報告書を眺めていた翠が顔を上げる。すると向かい側で書類仕事をしていた阿伏兎が書き物をしながら淡々と答えた。


『裏切り者を見つけ次第、首謀者は生け捕りにして取り調べろとのことだ。情報さえ聞き出したら後は始末するなり何なり好きにしろとさ。後の奴らは殺してかまわん』
「了解」


両者の間でそのようなやりとりがあった数時間後。

第七師団の面々と、首謀者の伝手やらを使って人員を増やしたらしい相手勢力は広大な砂漠の中で対峙していた。その数はざっと見ても第七師団の倍以上。

精鋭部隊の先頭に立つ神威は、いつも以上に楽しそうな笑顔を浮かべながら翠に振り返った。


『で、これ全部殺していいんだっけ?』
「首謀者らしき奴は生け捕りであとは好きにすればいい」
『そっか。了解』
『っあ、おい団長!?』
「まったく、仕方のない奴だ」
『おいおい翠まで、』
『今だ!あの二人を撃てェェェェ!』


何の前触れもなく敵に向かって走り出した神威と、それに続く翠を目掛けて一斉に放たれる銃弾。

しかしその攻撃をものともせず、広げた番傘で身を守りながら真っ直ぐに集団へと向かっていく神威。その背後を狙っていた別動隊らしき敵は、翠の番傘で脳天を貫かれる。
さらに翠の隙をついて後ろから襲い掛かってきた天人たちは神威の後ろ蹴りによって一人残らず地面へ叩きつけられる。
一つ間違えれば容赦なく互いを攻撃してしまうような激しい戦闘を繰り広げながら、二人は確実に敵だけを殲滅していく。


『すごいっスね!』
『団長はもちろんだが、ありゃ翠ちゃんもかなりの猛者だぜ…』
『おい、ぼーっとしてねェで俺らも行くぞ』
『あ!くそッ公績のやつ、一人で手柄挙げるつもりか!?行かせるかよ!』
『あーもう、バラバラに動かないでくださいよー!』


あまりにも息が合った二人の動きに見惚れていた儁乂と興覇は、一人飛び出していった公績を見てようやく我に返り、与えられた任務を全うすべく走り出した。

一方、次々と敵を打ち倒していく神威と翠に怯んだ相手勢力は、数で押せと言わんばかりに一斉に飛び掛かってくる。
小さく息を吐いた翠は、一際高く跳躍して敵の頭に両手をつき、そのままの勢いで頭を掴んでぐるりと横に回した。首の骨が折れて力を失った巨体が重力に従って地面に崩れ落ちるのを見届ける間もなく、次々と襲い来る敵を避けつつ腹部に強烈な拳をお見舞いしていく。その隙を見て攻撃を仕掛けようとする敵の腹部を容赦なく突き破り、辺りに出来た死体を踏み潰せば、ついに敵は翠から一定の距離を取った。


『くそ…っ!』


張り詰めた緊張の中、翠の背後で敵が動いた。その気配に向かって番傘を向けて撃ち込めば、蜂の巣となった巨体は重い音を立てながら地面に崩れ落ちる。


『っ怯むな!構わず撃てェェェ!!』


休む間もない攻撃だが、それでも一発も当たることがない。
とん、と合わさった背中に翠が不敵に笑う。


「たった二人にこれだけの数とは、随分警戒されているらしい」
『これなら少しは楽しめそうだね』


息の合った二人の共闘。一切の無駄がない洗練された動きに圧倒された相手勢力は、既に戦意喪失といった様子で二人から距離をとっている。それでも容赦なく敵に向かっていく姿は、まさに血に飢えた獣のようである。


『おうおう、末恐ろしい化け物たちが暴れてら。俺達の未来は明るいねェ』
『次世代への交代も近いな』
『いんや、まだ頑張らねェとな。何せうちの団長と隊長は細かい作業が嫌いなんだ』


阿伏兎と孟起の前で震える裏切り者はこれ以上の抵抗は無意味だと察したのか、諦めたように項垂れた。

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