『いやー、それにしても呆気なかったな!』
『さも興覇の手柄みたいな顔してますけど、それやったのほとんど団長と翠さんッスからね』
『うるせぇ!俺だって何体か殺ったわ!』
『二人とは比べ物にならないじゃないッスか』
『てめっ、儁乂!そういうお前だって何もやってねぇじゃねェか!』
『はいはい』


興覇が儁乂に突っ掛かる様子を横目に、返り血で汚れた外套を脱ぐ翠の隣に誰かが並んだ。顔を上げた翠の視界に眩しい金色が映る。


「公績か」
『俺には、あんな風に団長と並んで戦うことはできない』
「まあ私も命懸けだからな」


ばさりと埃を落とすために外套をはたく間も、公績はじっと翠の顔を見つめる。


『あんた、一体何者だ?』


険しい表情の公績に目を向けた翠はふっと笑った。


「性別こそ違うが、お前と同じ夜兎だ。育った環境が特殊なだけで、私は同族だよ」
『…そうか』
「ああ」
『…この前は悪かったな』
「いや、謝ることじゃないさ。知らない女がある日突然隊長に就任すれば、拒否反応を起こすのは当たり前だ」


その言葉を受けて再び真っ直ぐに翠を見つめた公績は、口元に笑みを浮かべて手を差し出した。


『これからよろしく頼むぜ、隊長』
「こちらこそ」



***



『あ、いたいた』


公績とシャワー室の前で別れ、血と埃で汚れていた顔を洗った翠は、シャワー室から出たところで神威に呼び止められた。
笑顔を浮かべる神威とは対照的に、今度は一体何だと顔を歪ませる翠。そんな彼女の腕を掴んだ神威は、嫌がる翠も気に留めずに歩き始めた。


「今度は何だ」
『ちょっと散歩に付き合ってよ』
「お前はそれを口実に書類仕事から逃げたいだけだろう」
『あれ、バレた?』


言いながら出入口のハッチを開ける神威。


「また阿伏兎が怒るぞ」
『少しくらい平気でしょ。すぐに出発するわけでもないんだし』


神威の言う通り、この星には任務終了後も3日ほど滞在する予定になっていた。
阿伏兎曰く、この星でしか手に入らない物や組織との交渉が色々あるとかで、ついでに暫く滞在して消耗品や食料品も買い揃えることにしたらしい。
翠は早々に共犯者になる覚悟を決め、無機質な床を蹴って地面に降り立った。


戦艦から降りて数分歩くと、随分と賑わっている様子の大通りが見えてきた。
どうやらこの星は商業が発達しているらしく、広い通りには多種多様な店が軒を連ねていた。生活用品を取り扱う店を見れば、その種類たるや、春雨母艦の商業施設にも劣らない品揃えである。
先程死闘を繰り広げた広大な砂漠のすぐ近くに、まさかこれほどの規模の商業施設が充実しているとは。物珍しさから辺りを見渡している翠は、何やら目的があるらしい神威に腕を引かれて一軒の店に入店した。

てっきり食料品の買い物だと思っていた翠は、広い店内を見渡して目を瞬かせる。壁やマネキンに飾られたチャイナドレスは、翠には見慣れたものだった。


「神威、ここって」
『いらっしゃいませ。何かお探しでしたか?』
『んー、とりあえずこの店にある服全部持ってきてくれる?』
『かしこまりました。少々お待ちくださいませ』


目の前でにっこり微笑む店員と、背中を押してくる神威を交互に見て、翠は諦めたように深く息を吐いた。

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