あれから大食漢二人の食べっぷりを以って散々店内を湧かし、店主を泣かせた後も、翠は神威によって強制的に振り回され、ようやく帰艦する頃には頭上で無数の星が瞬いていた。


『よーお団長。随分遅いお帰りで』
『よっ阿伏兎。結構楽しかったよ』
『なーにが「楽しかったよ」だ。このすっとこどっこい!』
『阿伏兎もたまには休んだらいいのに』
『それができたら苦労してねぇんだよコンチクショー!』


案の定、神威が戦艦に足を踏み入れた瞬間、入口の前で待ち構えていた阿伏兎に早々に捕獲されてしまう。火に油を注ぐような発言の数々に、阿伏兎の血管はそろそろ破裂してしまうのではないかと心配になる。


『だいたい翠!お前さんが付いていながら何でこんなことになってんだ!』


ひっそりと気配を隠していたのだが、副団長にはお見通しらしい。
お説教は免れないとみた翠は仕方なく阿伏兎の前に立った。


『出かけるのは構わんが、ちゃんとやることはやって』
「ああ、悪かった。今回は私にも非がある」
『…』
「ちゃんと任務は遂行したんだ。これといった騒ぎも起こしてないし、許してやってくれないか?」
『…』
「…阿伏兎?」


目を見開いて固まっている阿伏兎に近寄って首を傾げる。


「…おい、阿伏」
『隙ありっ』
「え」
『っ!おい団長!』


隙を見て逃げ出した神威を見て、ハッとしたように意識を取り戻した。


「阿伏兎、大丈夫か?」
『ん?ああ、いや…大丈夫だ』


そう言いながら頭を振る阿伏兎だが、なぜか不自然なまでに視線が合わない。


「…本当に平気か?」
『あー最近寝てなかったからな、睡魔に襲われただけだ』
「そうか。明日は私も手伝うよ」
『そりゃ助かるぜ。…あと翠』
「ん?」
『部屋の施錠だけは、ちゃんとしておけよ』
「? ああ、わかった」
『あと、身の危険を感じたら遠慮せず殺っちまえ』
「??」


やはり様子が可笑しい阿伏兎に「部屋まで送るか?」と提案するも即座に却下されてしまったため、翠は自室に戻っていた。

抱えていた風呂敷をベッドの上に広げて中身を手際よく収納していけば、空に近かったクローゼットが一瞬で色とりどりの服で埋まってしまう。開け放ったクローゼットの前で溜息を吐いた翠は、端の方に並べていた普段着―翠が故郷から持参した戦闘服だ―を一着手にとって扉を閉める。

羽織っていた外套をソファに投げ、手袋や腰のホルダーなど身に纏っていた装備品を外すと、阿伏兎の言い付け通りに施錠をして、数時間前にも利用したシャワー室へと向かった。

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