『や、おかえり』
「…お前も飽きないものだな」


一日の任務を終え、帰宅した翠の目に飛び込んできたのは我が物顔でソファに座る神威だった。

いつ家に侵入したのか、とか、何故当たり前のようにくつろいでいるのか、といった疑問は喉下で飲み込む。流石に三回目ともなれば慣れたもので、翠はそれだけ呟くと特に反論することもなく冷蔵庫に向かった。

出会い頭の暴力とストーカーに引き続き、この男の辞書に"不法侵入"という言葉は存在しないらしい。


『安心してよ、もう明日にはここから出ていくし』
「そうか」


翠の素っ気ない返事を聞いた神威はソファの背凭れから身を乗り出して不敵に笑った。


『だからさ。その前に俺と勝負してよ』
「勝負?」


珍しく正攻法で挑んできた神威に、あっという間に水一本を飲み終えた翠は目を瞬かせた。


『そ。翠が勝ったら俺は大人しくこの星から出ていく』
「…」


ちなみにここで「それは決定事項じゃなかったのか」という疑問が当然浮上するのだが、問いかけても聞き流されるだけである。大人しく聞き手に回るのが得策。


「…そっちが勝ったら?」
『翠が海賊に攫われる』


さらりと答え、笑みを深める神威に翠は堪えきれず吹き出した。


「っ、はははは!それじゃ私には、っな、何の利益もないだろう…?不平等もいいところだ」


苦しそうに息継ぎをする翠にきょとんとした神威が目を瞬かせる。


『絶対いい条件だと思ったのに』
「まあ、確かに面白くはあったな」
『じゃあ俺と勝負してくれる?』
「勝負、か。そうだな…」


肩を震わせながらそう答えた翠に、神威は再び笑みを浮かべた。

それに気付いた翠は空になったボトルをシンクに置くと、腰元に手をのばし長年共に戦ってきた相棒を引き抜く。

ここで承諾すれば無事でいられないのは目に見えている。それを知っていて、翠は覚悟を決めた。

期待に目を輝かせる神威に傘の先端を向け、挑発的に笑う。


「仕方ない。三顧の礼として…その勝負、受けて立とう」

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