やるからには何事も全力で


「私が上に行く」
『ここはどう考えても俺が上でさァ』
「いや、私が下だと安定感ないから」
『あの、じゃあ俺が下でいいですから』
「ザキ下手じゃん!狙いが定まらないんだよ!」
『そうだザキ、てめェは真ん中だ。所詮お前には地味な立ち位置がお似合いでィ』
『俺ゲームでも地味ポジション!?』
「てことでやっぱり一番上は私でしょ」
『いや、俺が下だと間違ってザキごと名前を敵に投げるかもしれねェ』
「おいそこは絶対間違っちゃダメだろ」
『テメーら…仕事サボってゲームやってんじゃねェェェ!』
『ふ、副長!?』
『げ、もうバレた』
「あちゃー」

庭で一心不乱にミントンをしていたザキを巻き込み、総悟も交えた三人でゼ〇ダを通信プレイしていたら背後の襖が物凄い音を立てて開いた。聞き覚えのあり過ぎる声に顔を顰めれば、隣で私と同じように3〇Sを握っていた総悟の首根っこが掴まれる。

『山崎ィィィ!』
『お、俺は名前ちゃんに巻き込まれたんですよ!あと今日は非番です!』
『チッ…おい総悟!お前は見廻りだろ!』
『家庭内暴力反対ですぜ土方さん』
『それから名前!』
「私も非番でーす」
『お前はよくそんな平気な顔で嘘つけるな!仕事溜まってんだろ、さっさとやれ』
「チッ」

呆れ顔の土方さんに舌打ちすれば青筋が浮かんだ。…あ、これマズイんじゃね?

『上等だ表出ろコラァァ!』
「ちょ、落ち着いてくださいってェェェ!」

またやってるよ、と呆れ半分同情半分といった視線を受けながら屯所の廊下を駆け抜ける。誰か助けろよ薄情者ォォォ!

ちらりと後ろに振り返る。般若を彷彿とさせる顔で青筋を立てて追い掛けてくる上司。

「あっ…青鬼より怖ェェェェェェェ!」
『誰が青鬼だコラァァァァァ』

廊下を曲がった先に見慣れた顔。驚いたようにこっちを見ていた彼は私の背後に目を向けると苦笑いを漏らした。

『おい近藤さんっ、そいつ捕まえてくれ!』
『え?』
「へっへーん!近藤さんはいつも私の味方だもんねーだ!」

振り返ってべーっと舌を出せば、さらに増える青筋。

『っ上等だテメェコラァ!地の果てまで追い掛けてやんよォォォ!』
「わー情熱的」

全くこの人は何ていじり甲斐がある人だろう。武州にいた頃もこんなんだったっけ?
考えながら前に向き直れば、慌てたような顔をしたザキが視界に映る。

『あ、名前ちゃん!今そこは』
「うがああああァァァ!?」

反応するよりも先に、バチィィィンッと足を何かに挟まれ、あまりの衝撃に床を転げ回る。

『名前ちゃん!?ちょ、今ヒロインにあるまじき声出たけど大丈夫!?』
「だ、誰だァァァこんなところにネズミ捕り仕掛けたのォォォ!」

悶絶しながらそう叫べば、いつの間に先回りしたのか前から優雅に歩いてきた総悟が私の前でしゃがみこんだ。その顔に浮かんでいるのはドS特有の黒い笑顔。

『あーすいやせん名前、土方さんを引っ掛けるはずが名前に引っかかったみたいで』
「お、覚えてろよ総悟…!」

この野郎、絶対許さないからな。
すると背後に禍々しいオーラを感じ、顔を引き攣らせながら後ろに振り返る。

『俺から逃げようなんざ百年早ェんだよ』
「ちょ、ま…あの、落ち着いて話し合いましょう?そう、平和的解決が一番!」
『おい名前…今すぐ切腹するか仕事するか選べ』
「こ、後者でお願いしますゥゥ!」

言うが早いか、がしっと掴まれてずるずる引きずられる。

「あああああ嫌だァァァァ」

可哀相に、と同情の視線を送ってくる隊士たちだが巻き込まれるのを恐れてか誰一人助けようとはしない。なんて奴らだ。

「あっ、ジミー!ねえジミー助けて!さっきまで一緒に遊んでたじゃん!私たち仲間じゃん!」
『…さーてと!非番だし散歩にでも行ってこようかなー!』
「もう友達やめるからなァァァァ!」

それから副長室でたっぷりと仕事をさせられた私は厠に行くと言って屯所を飛び出してきた。バレたらさっきの比じゃないくらい怒られるのは目に見えてるけど、私だってやられっぱなしじゃいられない。

「くっそアイツら…帰ったら覚えてろよ」

両手で揺れるレジ袋の中身はわさび、タバスコ、唐辛子その他諸々の辛口調味料だ。

「奴らの顔が目に浮かぶわ…!」
『あー!』

突然聞こえた叫び声に振り返れば、傘を差した見慣れた少女が隣に半端なくデカい犬を連れて立っていた。

『そこで極悪面浮かべてるのは、税金ドロボーの名前アルか!?』
「出たな酢昆布妖怪!またの名を密入国チャイナ娘…!」

じりじりと間合いを詰める。カッと目を見開いた次の瞬間、二人の距離は一気に縮まった。

『名前〜!相変わらず暇そうネ!』
「神楽〜!その言葉そっくりそのまま返すよー!」

何かと仲が悪い真選組と万事屋。だけど私たちは友達だ。
ある日お腹を空かせて公園のベンチに座ってた神楽を目撃し、偶然懐に入ってた酢昆布を渡したのがきっかけでかなり懐いてくれるようになった。
今じゃ可愛い妹分みたいなものだ。総悟との相性は最悪だけど。

「あ、ほら神楽。さっきスーパーで酢昆布買ったんだけど」
『きゃっほーい!やっぱり名前はいいやつネ!税金ドロボーでも腐れポリ公でも友達ヨ!』
「神楽にとっては酢昆布くれる人イコール友達なんだね。…え、腐れポリ公?」
『やっぱ酢昆布は美味いアルなー!』
「ていうか酢昆布くれる奴がいいヤツとは限らないからね、知らない人についてっちゃダメだからね!まあ大丈夫だとは思うけど!」
『当然ヨ!そんな輩がいたら返り討ちにしてやるネ』

酢昆布を頬張る神楽から隣へ視線を移す。

「定春くんは今日も可愛いねー」

近寄ってモフモフすれば定春くんは嬉しそうに顔を寄せてくる。ああ何て可愛いの。サイズは規格外だけど。
そんな私たちの横で神楽ちゃんが不服そうに唇を尖らせる。

『定春、何で名前には懐くのに私には噛み付くアルか』
「え、まだ噛み付かれるの」
『あっ、もしかして名前のことメス犬だと思ってるアルか?定春、名前はこう見えても一応人間アルよ』
「あれ私たち友達だよね?」
『そんなことより名前!ちょうどいいとこで出会ったアルな!』
「え?」





スパーンと開けられる襖にびくりと肩が跳ねる。油の切れたロボットのようにギギギ、と振り返れば、そこにはタバコをくわえる土方さんが立っていた。

『よォ、随分と長い厠だな』
「ひっ、土方さん…ただいま名前帰宅しましたー…」
『見りゃわかんだよ。ったく、こんな時間までどこ行ってやがった不良娘』
「こんな時間って、まだ11時前ですよ」
『おい話逸らしてんじゃねェ』

鋭い眼光でがっしりと頭を掴まれる。

「怒りませんか?」
『内容による』

これは逃げられないと即座に悟った私は、大人しく正座に座り直した。

「外に出たら、偶然神楽ちゃんと会いまして。そこから一緒にお妙ちゃんの家で鍋パにお呼ばれしてました。ちょうどいいところで帰ろうと思ったんですけど、その…すっかり話し込んじゃって」

仕事放置して遊んでごめんなさい。
そうぽつりと呟けば、少し間をおいて大きな溜息が降ってくる。思わず身構えれば、大きな手がぐしゃりと頭を撫でた。

「わっ」
『今度からは連絡くらい寄越せ』
「え」

小さな子供をあやすように髪が掻き回される。

「ちょっ…あの、土方さん!」
『あ?』

ばっと勢いよく顔を上げれば、不思議そうな彼と視線が合う。

「その…マヨネーズ臭が移るんでやめてください」
『…』
「ッいたぁぁぁぁ!?」

折角お説教は回避できたのに、拳骨をお見舞いされてしまった。

「ちょ、拳骨はやめましょう!?頭のてっぺんだけへこんじゃいますから!」
『これに懲りたら、次から無断で抜け出すのは控えるこった』
「あいたっ」

何故か追撃のデコピン。くそう、これだって地味に痛いんだぞ。
額を擦りながら足を動かせば、畳の上に置いてあったビニール袋に当たってがさりと音を立てた。

「あ、そうだ。これ土方さんに」
『…』
「…いや、そんな『貢ぎ物ごときで許すと思うなよ』みたいな顔しないでください。純粋な気持なんで」
『…はあ』

溜息をつきながらビニール袋に手を突っ込んだ土方さんが、中からいろんな色のチューブを取り出してブチ切れるまで、あと5秒。

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