薄氷
06
ある日のこと、事は些細なことから始まった。
「マキちゃんとくっつけようとしたときのアレ名前ちゃんにも効くと思う?」
「そういうのは思いついたら即行動ってやつですよ」
地獄で起きている事実を彼らはまだ知らない。そう今は神無月真っ只中。まだ効果は有効かもしれないとひらめいたのだ。
篁が閻魔庁に訪れたとき、鬼灯はどこにいるのか聞いたのがすべての始まりだった。それは、確認しようと鏡を使って使い鬼灯が経費で動物園に行っているのを苦笑いを浮かべながら見ていたときのこと。
「お、可愛らしい方ですね。のんびりとした性格でしょこの人」
「篁くん結構鋭い…。ワシは名前ちゃんくらい緩い女性がいいと思う…あ」
冒頭に至るわけである。
「あ、早速効いてますよ」
「カフェなんかに行っちゃって〜!これは前よりも良い結果が…」
郊外を歩いていると見つけた人通りの少ないところにある薄暗いカフェに鬼灯から中に入ろうと誘っているように見えた。これはとばかりに視聴者の期待が高まる。
『やはり亡者がうじゃうじゃといますね』
「「今は仕事は忘れて!!!」」
これはきっと以前と同じように鬼灯の仕事病が発動してきっかけをことごとく粉砕していく様子と重なった。鬼灯が訪れたのは廃墟とかしたカフェだったらしい。
「きゃーっ!いっぱい亡者が!ねえねえ、どんな死に方したんです?どんな人生でしたか?」
目を輝かせながらそこいらいにる亡者に話しかける。亡者も引くくらいに。
大体が見た感じによると自殺と思われた風貌をしていた。その亡者に死に方や人生を聞いても古傷に塩を塗るようなもの。どの亡者もそのキラキラした瞳から逃げようと後ずさりをした。
「…喜んじゃってますよ」
篁も若干苦笑いを浮かべている。本人が人間好きということも差し引いても変人のレッテルを貼られてしまうのは仕方のないことかもしれない。
「今回は名前さんのお陰で速やかに亡者を確保することに成功しました。ありがとうございます」
ぐったりとした亡者たちを確保するのは容易であった。普段より早く片付いた事に鬼灯も満足そうである。
「私も亡者とお話できて楽しかったです。地獄にいる亡者は話しかけても答えてくれないくらい疲れてますしね」
「今いる亡者は貴方のせいで地獄の亡者と同じような顔色をしてますよ」
まさか、と笑って名前は信じようとはしなかった。絵面としては亡者がうじゃうじゃいて邪魔ではあるものの、二人が並びながら歩く姿は、傍から見れば恋人と思われてしまうほど雰囲気は和やかであった。
「こ、今回は効いたのかな?」
「二人とも変わってるから、案外お似合いかもしれませんね」
なんだかんだいって上手くいったことに安堵する二人。
タイミングが悪かった。そこに白澤が薬を届けにやってきたのだから。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!何してんの?!何コレ?!あの朴念仁…!!僕も現世に行ってくる!」
悲鳴を上げたかと思うと一目散に現世の扉の方へと走り去っていく白澤。閻魔大王と篁の顔から血色が引いていく。
「あー、何か面倒な事になりそうですね」
「ワシ、また鬼灯くんに金棒で殴られそう…」
この後のことは言うまでもない。白澤ご乱入しいつもどおりの口論が始まるだけ。そして、地獄へ帰ってきた鬼灯に閻魔大王がイビられるだけであった。
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