朝露に濡れし袖

03


「あ、ありがとう…って肩の方濡れてる」

前原君は投げ捨てられた自分の傘をさすと私のそばから離れて申し訳なさそうにこちらを見ていた。

「前原君に比べたら大したことないよ」

「あ…俺、君と話したことあったっけ?」

さらに申し訳なさそうな顔になる。ぽかんとした名前はさも当たり前かのようにこう言った。

「一年の頃に廊下で一回私の名前聞いてきて、俺は前原って言ったよ。クラス違うのに」

「すげー記憶力」

一年の頃といえば入学したての頃。なりふり構わず可愛い女子を見つけては声をかけていた時があった。彼女も彼女でその時期は新しいクラスメイトの名前を覚えるのも大変だったであろうに、忘れられて当然の出会いを覚えているなんて。

(まさか…脈アリ⁈)

男とは勘違いする生き物である。

「風邪ひかないようにね。それじゃあ」

「あっ…ま、」

意外とそっけなく帰ってしまうものだから、少しばかり期待していた分落胆する。彼女はまだ知らない。この券をきっかけにクラスメイトに酷い仕返しが返ってくることを。

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