双極

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「この字、名前ちゃんのじゃないです」

名前が誘拐された可能性があるというキッカケになった言葉を発したのはいつもはヘボばかりする事務員小松田だった。

「と、言うわけでだな、利吉も仕事の合間に何か情報があれば伝えてほしい」

小松田が言っていること自体が本当か悩ましいものではあるが、彼女が帰ってこないのは事実のようだった。

今日たまたま学園に寄ったのも、父の洗濯物を届けにいくという用事があったものの、もしかしたら名前を見かけるかもしれないと心の隅ではそう思っていた利吉にとっては衝撃だった。

「こんなにすぐに見つかるとは…」

しらみ潰しに探していく予定だったのだが、まず先に思いついたドクタケ城に潜入したらすぐに彼女は見つかった。呑気に小豆を煮込んでいる。しかし、見張りがついているから接近することは難しい。

「よお、見張り代わるぜ。休憩してきなよ」

こんな奴ドクタケの忍にいたかなと疑問に思ったものの、その忍は休憩がもらえることを優先してすぐに、ドクタケの忍を装った利吉に彼女を任せた。

「名前さん。私だ」

「ごめんなさい、今小豆から目が離せない状態なんです」

イラっとした。

「君を助けに来たというのになんだその言い方は」

「はっ!り、利吉さん⁈私を助けに…??で、でもこのおしるこができるまでちょっと待ってもらってもいいですか?」

どうやら小松田くん同様彼女も私をイライラさせるのがうまいらしい。頑なに動こうとしない彼女に一体何の理由で捕まったのか聞くと意外なものだった。

「お殿様を褒めて欲しかったみたいです。先程、お話しさせていただきましたら、機嫌が良くなったと八宝斎さんが。1週間ではなくずっといてほしいと言われて焦っちゃいました」

ドクタケにスカウトされていたようだ。小松田が気づかなければ彼女は帰ろうにも帰れなかったと思うと、彼の判断は間違ってはいなかったと関心せざるを得ない。

「褒めにきたのになぜ君はおしるこを作っているんだ」

「それは…仕事病といいますか。かくかくしかじかでして」

つまり、魔界之小路先生が通販で間違って届いた小豆をおしるこにして忍術教室の良い子たいに振る舞うことにしたと言う。小豆に罪はないんです、と何の言い訳にもならない言い訳を言うものだから思わずため息が出た。

「“自分に厳しく、人には甘く、あんこへの想いは人一倍甘く”」

大きな鍋をかき回しながら彼女はそう言った。一体何を言い出したのか利吉は頭を悩ませる。

「うちの家訓なんです。けど、私、小さい頃はあんこが嫌いでした」

話しながらも鍋をかき混ぜる手は止めない。彼女の目は真剣そのものだった。

「大好きな父が、あんこに熱中して私よりあんこの方が大切なのだと嫉妬してしまって」

それは利吉も共感することができた。忍術学園で先生をする父はなかなか帰ってこない。忍の仕事の方が大事なのかと嫉妬したことはあった。土井先生が来た時も、彼に父を取られてしまうのではないかと思ったこともあった。

「そんなこと、なかったんですけどね。仕事への情熱と家族への愛を比べるもんじゃありません」

それに気づいてからだという。あんこへ本当に思いをこめながら作るようになったのは。
出来上がったのか、額に汗をかきながらもその顔は清々しい。

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