双極

03


「ほう、名前さんに会ったのか」

「はい、人は良さそうですが…」

「ハハッ、お前は苦手そうだな」

言葉を濁す利吉。自分の息子である利吉のことを伝蔵はよく理解していた。彼は自分に厳しく、他人に対しても指摘することは指摘するタイプだ。自分に甘いわけではないが、ダメなところを寧ろ誉めてしまう名前とは真反対であることから馬は合わないだろうと元々考えていた。

「それはさておき、実家にはいつお戻りに?」

「う、まあ近いうちにだな…」

今度は伝蔵が言葉を濁す番だった。なんとか逃れようとした時に、いいタイミングで廊下から足音がした。障子の前で止まるとトントンと音がする。入って良いと言うと襖を開けたのは話題に上がっていた名前であった。

「お茶をお持ちいたしました。親子水入らずのところ、ごめんなさい」

少し申し訳なさそうに眉を下げている。先程会ったばかりだが、苦手意識のある利吉は眉をひそめ、忍びでありながらも表情が表に現れた。


伝蔵にとっては救いの手であった。まあお茶でも飲んで一服しようと利吉に促し、彼も仕方なさそうにそれに同意した。

「話は逸れてませんよ。母上に顔を見せてください」

お茶を開き終わる前に、話の続きを切り出す。忙しいだのうだうだと理屈をつけている伝蔵に対し、話が耳に入った彼女は思わず口を開いた。

「山田先生は、実家にお戻りになるのですか?」

「いや…仕事も忙しいしだな、家は遠いし…」

「いつか、ご家族にうちの和菓子を食べていただきたいと名前思っておりました。利吉さんも聡明な方で、素敵なご家族なんだろうなぁと思うと更に食べていただきたくなりました。いつ戻られるのですか?」

キラキラと輝く目で帰る日にちを聞いてくる名前。帰る日に合わせて実家の和菓子を作り手土産として持たせるつもりなのだろう。これはいい渡り船が来たと、利吉は伝蔵に畳み掛ける。

「ほら、名前さんもこう言ってますし…」

苦手な相手であっても、うまく利用してみせる。忍びとしてこんなうまい手はなかった。逃げ場を無くした伝蔵は渋々来週に帰ることを宣言し、利吉は満足そうに帰っていった。

「特別美味しいものをご用意しますので楽しみにしてください!」

「あなたって人は…いえ、楽しみにします」

彼女に悪意がないことは分かっていたが、それでもため息混じりに彼女を見た。ニコニコとまだあどけない笑顔を浮かべる彼女を見ると伝蔵はそう言わざるを得なかった。

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