双極
04
みんな私のことを「甘すぎ」と言った。私の名字も尼杉だから、紛らわしいとのことでほとんどの人が私のことを下の名前で呼ぶようになった。採用されて3ヶ月ほど経った学園内でもそれが既に浸透している。
「だーかーら!通せと言ってるだろう!なんなんだこの女はぁ!」
「でも、花房牧之介さんはリストに載っていないので、確認しないとなんです」
彼女の表情はいつも穏やかだ。しかし、珍しくも困らせる猛者が現れたのだ。眉を下げて先生に通していいか、確認しせて欲しいのだが、彼はそれすら渋っている。
普段は小松田がやっている業務なのだが、生憎別の用事があり名前が引き受けている。いつもは名前を書けば通る、セキュリティの低さから、花房は今日も普通に学園内に入れるものだとばかり思っていた。
「顔パスだからな私は。戸部新左ヱ門と勝負しにきた。今日こそは決着をつけてやる!」
「戸部新左ヱ門先生と戦いを挑めるほどの剣豪なのですね。凄いですね!」
「ほえ?まあな!!!私の実力が発揮できればアイツは肩にも及ばないが…ウダウダ」
話は逸れてしまったが、いかに自分が強い剣士であるかを説明している。己の自尊心の高さゆえに話を盛って話すのだが、彼女はうんうんと、話を聞いて、「ほんとにお強いのですね」だの「まあ!そんな事が」と愛想よく聞くものだから、花房の方も話していて気持ちよくなり本題を忘れていった。
「まあ、そう言ったところだ。私の強さがわかったか、女。今日は仕方ない。諦めてやる」
「また面白いお話聞かせてくださいね。私、尼杉名前と言います」
「尼杉か…たしかに、甘すぎだなっ!!とやっ!!!」
彼女を押し退けて門内に駆け出した。思いっきり押されてしまい、尻餅をついた名前は一足遅れてしまう。
曲者を入れてしまった。どうしよう。
アワアワと、首筋に冷や汗が伝う。とりあえず追いかけないと、彼の後ろ姿を追いかけた。
「侵入者を入れてしまいました〜!誰か、花房さんを捕まえてください〜っ!」
いつもより大きな声で周りに呼びかけながら走る。すると、出会ったのは一年は組の良い子たち。乱太郎、きり丸、しんべえの仲良し3人組だ。
「花房牧之介ぐらいなら大丈夫だと思いますよ。ていうか、小松田さんいつも入れちゃってるし」
「ええっ…?でも、とても強い方だと…」
「本人がそう思ってるだけです」
ゼェゼェと普段走らないものだから呼吸が荒い。3人は大丈夫だと言って、戸部新左ヱ門先生がいる道場へ連れて行ってくれた。
「ほらね」
ゆらゆらと揺られながらも目にまとまらぬ速さで花房の剣を弾き飛ばした。その姿を見て、自分の甘さを痛感した。一年の子供たちが強さを見極めれているというのに、自分は言葉を鵜呑みにして誉めてしまった。花房がやられる姿を見ながら虚しさが込み上げてきた。
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