双極
05
「私は尼杉…甘すぎ…あ、このさつまいもの煮物、甘くて美味しい…おばちゃんは天才ですね」
あれからというもの名前さんは落ち込んでいた。褒めるのは通常運転でいつもと変わらないが、心ここに在らずというか、覇気がなかった。
「どうしちゃったのかしら名前ちゃん…」
彼女が退出してから心配そうに彼女の名前を出した。その時に食堂にいたのは乱太郎、きり丸、しんべえとちょうど学園の近くに寄ったので顔を出した利吉だった。
「実はかくかくしかじかなんです」
「はぁ…」
まあ、自分の甘さを自覚したのならこれからはもっと改善していけるようになるのではないかと利吉は思ったが、想像以上に落ち込んでいるようだった。
「利吉くん、慰めてあげてくれない?」
女の子の扱いになれているであろう彼に白羽の矢が立った。なるべく苦手な人である彼女に近づきたくはないのだが、3人からも、彼ならできると信頼し切った目でこちらを見つめてくる。利吉はプライドを優先した。
彼女を探していると、仕事を一通り終わらせたのか庭に出てダンベルを持ち上げようとしている女がいたからすぐに見つかった。
「何をしてるんだ」
「あぁ…利吉さん。潮江くんにお借りしたんです。事務員たるもの侵入者に弾き飛ばされるようではいけませんので」
一向に持ち上がらないダンベル。力むせいで顔が赤らんでいる。この人は自分には甘くないんだなと、そんなことを考えた。そんなことを考えている間もダンベルはびくともしなかった。
「君は人に対して甘すぎるんだ」
「っ!…そうですね」
「その結果、学園に些細なことだが、迷惑をかけてしまったと」
「…はい」
どんどん声に力が入らなくなっていく。目線も下に下がっていく。そんな様子を見て、利吉は考える。
暮らしてきた環境が違うせいか、温暖な生活を送ってきた名前との折り合いは悪い。小松田ほどではないが、彼女と話していて心穏やかになることはないだろう。
「君が学園から任された業務は、事務作業だ。侵入者を防ぐのに越したことはないが…侵入されたとしても生徒たちの勉強だ。君にそこまでしてほしいとは…誰も思っちゃいない」
これはフォローの内に入っているのだろうか。自分で言っておきながら疑問が残る言葉ではあったが、小松田や彼女と話すと、いつも棘のある言葉が頭の中に浮かんできてしまう。任務との時に接した女性への対応が、彼女には出来なかった。
「私を慰めてくれたのですね。やっぱり、お優しい方です…」
こんな手厳しいフォローで彼女はそれを慰めだと捉えたことに少しばかり驚いた。そのような言葉しか出せなかった自分に少しばかりの罪悪感を覚える。
「ありがとうございます、利吉さん」
「っ!」
自分より歳下であろう彼女の心の底からの笑顔、その言葉以外の不純物が含まれていない澄み切った声。何かに心臓をつかまれたような感覚に陥った。
「と、とにかく、家族への和菓子を頂いた借りは返したからな」
そあ吐き捨てるとすぐさま姿を消してしまった。
「そんな…貸しだなんて思ってませんよ〜っ!また作らせてください〜!!」
どこに行ってしまったか、この声が彼に届いているかもわからない。しかし、彼女は空に向かってそう叫んだ。
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