双極
07
『きり丸くん、アルバイトお願いできますか?』
そう言われて、いいえ、と答えるほど俺はアルバイターきり丸の名を捨てたいわけではい。むしろ誇りに思っているのだが、名前さんが人に頼み事など珍しい。ちょうど暇を持て余している乱太郎、しんべえも引き連れていいかと言うと彼女は勿論だとふんわりとした笑みを浮かべた。
「うちの和菓子屋が大量販売するらしくて、売り子が足りないらしいんです。休憩もしっかりあるし、和菓子いっぱい用意してるからよかったら食べて」
その言葉にしんべえもやる気を沸騰させた。
「私もその日から2日ほど休暇をもらうんです。一緒に行きましょう」
そして、その日になった。
「あら〜っ!可愛らしい売り子ちゃんたちを連れてきてくれたのねっ。うちの店も華やかになるわ」
(名前さんの遺伝子を感じる!!)
出迎えてくれたのは名前さんの母である。雰囲気が名前さんとそっくりだからすぐに分かった。女装をしてきたものだから女の子だと信じきっており、心の底から歓迎してくれていることが伝わってきた。
「私は和菓子作り担当だから奥にいるけど、何かあったら言ってください」
そう言って台所の方へ行ってしまった。彼女の顔立ちや愛嬌の良さなら、売り子としても大活躍できるのにもったいないと思いながらも、俺はアルバイトに専念することにした。
「甘さが足りん!自分に厳しく、人には甘く。あんこにかける思いは人一倍甘く!!」
「はいっ」
「…なんかスパルタだね」
たまに奥から聞こえてくる厳しい言葉。和菓子屋ってそんなに厳しいのか。奥は暖簾がかかっていてよく見えないが聞こえてくる名前の掛け声から普段の穏やかな雰囲気ではないことは伝わってくる。
「名前はね、あんこを人一倍甘くさせたくて、人に甘くなりすぎちゃったのよ」
人に甘くすることで、さらにあんこへの思いが甘くなると捉えた幼き頃の名前。その掛け声を忠実に守ってきた。それで今日に至るわけだ。
「それがあの子の良いところでもあるんだけれど、世の中いい人たちだけではないからちょっと心配よね」
世の中を知るためにも、一度忍術学園で社会を知ること、己を律して生きる忍に学ぶことが沢山あると思い事務員をしてみたらどうかと提案したらしい。
「ちょっと疲れたかしら?和菓子たべる?」
「いや、まだ始めて半刻も経ってません」
お母さん。貴方も充分甘いです。と、伝えるべきか否か子供の俺にはわからなかった。
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