落花流水
015
近利関の城を落とした夜、郭備を含め有能な千人将が数人暗殺されるという事件が起きた。次の朝の進軍は厳重そのものだった。昨晩の暗殺事件を受け、合戦並みの防陣を敷く各将軍。しかしそれでも羅元将軍が討たれてしまった。
例外なく名も慎重に前列と同じ速さで進んでいる。普段と違う異様な雰囲気、実力を兼ね備えた有能な千人将ばかりが狙われている事が気に掛かった。
先日までの戦とは打って変わった気がした。何か心の奥底で煮え切らぬ不信感が生まれてくる。
「この戦、何かが引っかかるって顔してる」
深く考え込んでいたせいか、話しかけられるまで気がつかなかった。声の方を向くとそこには蒙恬がいつも通りの様子で「やっほー」などと言うものだから、一気に肩の力が抜けて、無意識のうちに安堵していた。
「前に信もいるからさ、少し話さないか?」
いつもの柔らかい表情のはずなのに瞳はどこか真剣で、名は頷くことしか出来なかった。
信も加えて話題は今回の敵将についてだった。趙に亡命してからここ三年一度も戦に出ていない廉頗という将軍がもしかしたらこの戦の真の大将ではないかと。憶測でしがないが、蒙恬はその可能性が拭えずに私たちに話したのだ。
「趙に冷遇されているが故に戦には出ないという固定概念を私たちは植え付けられていましたが魏の策略で、その基盤が危ういとしたら」
「そう、今回の戦で多大な害を被るのは秦だ」
3人とも静まりかえった。今回はただの進軍だけではない。眉間を寄せて考えたが、正解が見出せない。ただ可能性があるというだけでここまで懸念させる、廉頗将軍とはそれほどまでに危惧しなければならない人物であった。
「相変わらず勘の良さは一人前だな」
振り向けばそこにいたのは蒙武将軍であった。咄嗟に跪き合掌する。何してんだお前と、信に不可解な顔をされるが、慌てて信にも頭を下げるように催促する。
「何をしているとはこちらの台詞です、頭を下げて…」
「あー...父上」
「父上?…ってことは親父??」
私の忠告は耳に入らず、蒙恬と蒙武が親子関係にあることき驚きを隠せない信。全然似てないとでも言いたげな表情を隠そうともしない。というより知らないことに驚くと、名は心の中で突っ込み、背中に冷たい汗が伝った。
prev next
Back to main nobel