落花流水
016
蒙武は今回進軍する将軍ではないはずだ。なぜこんなところに居るのかと疑問に感じたが、その答えはすぐにわかった。
蒙恬の憶測通り、魏軍は廉頗将軍が率いているという昌平君の伝令を伝えにきたのだった。
信の事は王騎将軍の件で知っているようだった。いくらか言葉を信に放つと、視線は名の方に向いた。
「お前が女でありながら戦に出る理由はなんだ」
ただ投げかけられたその問いは、純粋な疑問だったからだろう。深い意味もないはずのその質問に、名の表情は一気に暗くなる。そして、名家であり、実力のある蒙武将軍から放たれた圧力的な雰囲気に生唾が喉を通らないほど苦しくなった。
「私が、戦に出る理由は…」
途切れ途切れに言葉を紡いでいく名がいつもと様子が違うことに2人は気がついていた。だが、今声をかけたところでなんの手助けが出来るであろうか。
「…此処に、来れば何か…見つかると思いました」
この言葉だけはちゃんと蒙武の目を見て言えた。最後の方には敬語も付けれないほど、彼女にとっては深刻で、重苦しい内容だったのだろう。彼女というものの芯に触れる言葉だったのかもしれない。
「フン…妙な女だ。戦場で探し物など」
妙な女と言いつつも蒙武は面白いモノを見たというような顔をしていた。名はそれに気付き、女で戦に出ることを否定されたわけではない事を悟った。寧ろ、これからを楽しみにしている様な様子に名はいつもの雰囲気に戻ることができた。
蒙武が去っていく後ろ姿を見送りながら、しばらく沈黙が続いた。
「私は信殿のような大志も、蒙恬殿が背負う名家の重みも持ち合わせていませんが戦場にいます」
何か言いたげな2人を彼女は自ら止めた。多分、その言葉はこれ以上は踏み込んでくるなという予防線なのだろう。それを理解したからか、2人はそれ以上は何も聞かなかった。
飛信隊の列から自分たちが率いる隊に戻るべく、蒙恬と名は進行とは逆の方へと進んでいく。「「あのっ/ねぇ」」蒙恬が何か話そうと口を開いたと同時に名も何か話そうとして蒙恬の方を見た。
「はは、被ったね。名から話しなよ」
蒙恬は聞き手に回った。優しく微笑むものだから名は大抵の女性はこれで落ちてもしょうがないと感じるほど、蒙恬が魅力的に見えた。咸陽の方では女性陣の蒙恬に対する人気はかなりのものと聞いていたが、その理由が分かった気がした。
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