落花流水

020


翌朝。
多くの千人将を暗殺された蒙驁軍は、軍の再編成をすると発表された。

昨日の晩話したご老人とそっくりな蒙驁将軍に名は心臓が凍った。あの人が蒙驁将軍だったとは。近くで彼を見たのは今回が初めてだったこともあり、見抜くことができなかった。今思い返せばめちゃくちゃ失礼な態度をしていたものだ。今度面会できる機会が有れば陳謝しなければと名の顔から血の気が引いていく。

暗殺された千人将の代わりに、臨時で2名の三百将を千人将に昇格させるという。

結果、蒙恬と王賁の昇格が決まり、悔しがる信。しかし、蒙驁の計らいにより、信は条件付きで臨時千人将に昇格する。

3人が千人将に昇格され名は自分の事のように嬉しかった。しかし、彼らが遠くに行ってしまったようなもどかしい感情が生まれる。

自分が隊を率いるとなった時、つまり隊編成初期からいる古株の兵士に名は意を決した表情で話しかける。

「ここから先、今までとは比べ物にならない程厳しい戦いとなるでしょう。私たちのような少人数は何処かの隊に組み込まれるはずです」

「俺たちはただ名の考えに従うさ。そうだろ、お前ら」

おおーっ、と歓声が出る。それを聞いて彼女はありがとうと返した。

「それで一つ考えがあるんですが…その前に」

らしくない沈黙に兵士たちは疑問を浮かべる。髪を弄ったり、服の袖をいじいじと摩る姿は女性としてとても愛らしいが、彼女らしくない。普段はもっと内心を秘めたミステリアスな笑みで自分たちの心を魅了しているというのに。

「ちょっとした勘違いで、蒙驁将軍に無礼を致しました…昇格に支障をきたすかもしれません」

辺りが沈黙に変わった。

「何考えてるんすか!!」

「日頃の行いが運のツキでしたね」

先ほどまでの隊長を慕う雰囲気はどこへやら。一変して野次が混じり飛ぶ。というから日頃の行いはそんなに悪くありませんと名は珍しく食い下がり、全く関係のない野次罵倒までもが兵士たちの間で繰り広げられ辺りは他人からすると活気付いた隊に見えたに違いない。

「カカカ、見ろよ蒙恬。名の奴、一人取り残されて逆に燃えてるぜ」

「ええ、俺には喧嘩を鎮めようと焦ってるように見えるけど」

兎にも角にも、彼女の隊が騒がしいなんて物珍しい光景だった。信は同期が3人とも千人将になって悔しがっているのだろうと捉えたが、蒙恬には何が原因かは定かではないが隊全体に起きた騒ぎを何とかしようと困り顔な名に見えたようだった。

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