落花流水
021
「名のやつ、落ち込むかと思って心配してたけどよ、割と平気そうだな」
「そもそもあの子は昇進意欲が少ないからなー。才能あるのに」
肩をすくめて勿体無いよね、と王賁を軽く小突く。話を振るなと言わんばかりに王賁は蒙恬を睨み返した。信は心配して損したぜと、ケラケラ笑った。
「お前じゃなくてアイツが千人将に選ばれる可能性は有意にあったぞ」
他の者を心配するほどの余裕なんてあるのかと、あるなら自分の現状を把握するべきである。信のその態度に虫の居所を悪くしたのか王賁は入るつもりなど微塵もなかったこの会話に入る羽目になってしまった。
「ああ?どういう意味だコラ」
癪に触る言い方をしたために信も爆発寸前だ。険悪になってしまった雰囲気を蒙恬は宥める。
「王賁の言い方は悪い。だがあながち間違ってないんだ、信。今までに何度か名に援護してきた事があっただろ。あの時どうだった?」
「そりゃ味方の人数も増えるわけだしいつもより動けたぜ」
何を当たり前のことを聞くのだと信は首を傾げた。話題の人である名は兵士たちの騒ぎを収める事ができたようだが、戦前に少し疲れた表情を浮かべていた。それを見た蒙恬は可愛らしいところがあると目元を緩めた。
「確かに味方の数が増えると強くなる。だけど名の場合それだけじゃないんだ」
「彼奴は状況把握能力が抜群に高い。…また、味方の動きに対して最適な援護を臨機応変にこなすのが取り柄だからな」
最も功績を挙げた回数は少ないかもしれない。だが、彼女は平均的に高い功績を挙げていたのだ。援護に回る事で目立つことは少なかったかもしれないがそれが彼女の持ち味であり、戦い方だったことを知る。総合的に見ればこの3人に少し劣るものの近しい功績を残していたのである。
「信も気づかなかったかもしれないけど、飛信隊が動きやすいように名に御膳立てされてたってわけ」
「一応功績奪い合う関係なのによ…やっぱアイツ掴めねぇ性格してんな」
どう考えても、自分への利益よりも相手の手柄の方が高くなってしまうにも関わらずその様な事とする理由が解せない。信は頭を抱えてグゥゥゥッと唸り出した。
「昇進意欲の問題さ。まあ見る人によっては名の強さを見抜くだろうね。ああいう系統の子を自身の隊に加えると格段に連携や戦闘力が上がるから」
信は自分の考えに及ばないところで名の評価がこんなに高いとは思っていなかった。少しだけ蒙恬に似て飄々としているところがあるが少し違って地に足つかない浮ついた、何処か儚さをもった存在。なぜ、戦う意思が強いわけでもなく華奢な女がここまで生き残って、ましてや隊を率いているのか。そうか、そのような才能を隠し持っていたからかと名を見る目が少しだけ変わった。
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