落花流水

022


千人将となった彼らに再編成された兵士達。

名も再編成される隊として移動していた。だが、緊張感はあまりない。愛馬の首元を優しく撫でて後ろを向かせると、兵士達に「ありがとう」と一言だけ言った。

兵士たちはその言葉だけで彼女の想いが理解できた。その表情を見て反論しようものなどこの隊の仲にはいなかった。

「お前に誘われてなかったら、暗闇の中彷徨ってた奴らも多いだろうよ」

頬に大きな傷のある兵士がそう言い出した。名は馬を止めて彼を見た。長い髪を低い位置で一つに結んでいた髪もそれに合わせて靡いた。

「俺たちは充分だ。もう充分自由になれた。今度は名、お前の番だ」

名は大きな瞳を見開いた。握っていた手綱に力を込める。男はその様子を気にもせず続けた。

「お前がやりたいようにやれ。お前が何をどう決めようが苦い顔する野郎はここにはいねェ」

なあ、そうだろ。と周りに問うと皆が深く頷いた。

「…ええ、知っていますよ。知っていますとも」

一瞬瞳が緩んだが、堪えることができた。涙を流す姿など戦いの前に見せたくない。隊長としてのプライドもあった。

「全く…ずりーな、うちの隊長は」

一つ、二つと笑い声が増えていく。名もつられて笑った。端正に微笑むいつもの笑みではなく、白い歯を見せて目を細めて笑う。まだ子供らしさを残すその笑顔は滅多に見ることはない信頼関係がある上で心を許した者に向ける笑顔だった。

「遂に千人将ですな、蒙恬様」

胡漸は自分の事のように嬉しく思いながら、遠くを見つめている蒙恬に呼びかけた。信に千人将と名称をつけお互い呼び合っていた感じだったが、今は名家に生まれた者としての重みを感じていたのだろう。自分の名を呼ばれて初めて気づいたようだった。

「そうだね。でも、遅くない?追加で来る隊」

もうそろそろ顔を合わせにきてもいい時間帯だと思うのだが、未だに顔合わせに来ない隊に対して疑問を持ち始めた蒙恬。胡漸も同意見であった。

「ええー。うちと上手くやってけるかもう心配なんだけど」

急遽千人将に抜擢されたのは喜ばしい事だ。しかし、急編成された隊は何処かで綻びが生じるもの。蒙恬はなるべくそれを小さくしたかった。

「遅くなったことお詫び申し上げます。蒙恬千人将」

高い声が響いた。この声の持ち主を蒙恬は知っている。

「名?どうして…」

「急遽編成された部隊で千人を率いるとどうしても統率が難しいかと。今回の戦だけでもと楽華隊に志願いたしました。たった三百人ですが」

気休めかもしれませんと、苦笑いを浮かべる名。残りの四百人は暗殺されてしまった千人将の隊から派遣されると名は蒙恬に伝えた。

「ホント痒いところに手が届くよね、言わずとも」

自分が危惧していたことを彼女も考えていた。そして解決した。彼女との連携は何度も行っており、かなり複雑なことをしても彼女がいれば可能になった。

「偶然ですよ」

よろしくお願いします。と彼女は華麗に微笑んでみせた。

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