落花流水

024


「蒙恬殿…私なんだかスッキリしました」

「それは何より」

重たい話をしてしまったのにも関わらず、いつもと変わらない雰囲気でニコリと笑ってみせる。名は気が乱れていた原因が分かった。

「それより、ありがとう。名が臨時でも入ってくれて。お陰で格段に動きやすくなる」

「どちらにせよ、何処かの隊に編成される予定でしたから」

それなら最も役に立てる場所で働きたい。そう思って志願した。彼との相性は良く、名も連携がしやすいと感じていた。

「ずっといてくれてもいいんだよ?」

蒙恬は自分の髪を弄りながら軽い冗談を言うように笑ってみせた。
名は数秒蒙恬を見つめると、視線を夜空に変えた。新月だからか、星がいつもよりも輝いている。

「そうですねぇ」

星が輝いていると普段よりも空の魅力が増すのは何故だろう。名の表情は拒絶していなかった。

「気が向きましたら」

そう言って嬉しそうに微笑む。取り繕う笑みとは違う美しさ。その表情はいつもの謎めいた雰囲気とは違う天真爛漫な、年相応の少女だ。

「ハハッ、期待しとくよ」

この時間が蒙恬にとっては心地が良かった。蒙恬もつられて微笑む。今日見上げた夜空はいつも以上に星が輝いている。それは彼女と見た空だからか。

名も空を見上げる。蒙恬が言った言葉が頭から離れない。

『名はきっと、逃げ続けることはできないよ』

思い返せば、ずっと、ずっと逃げていた。

家族から。自分の弱さから。才能ある周囲の戦に対する情熱から。逃げてばかりでは、何処にも居場所なんて見つかるわけがなかった。

問題は場所じゃない。人じゃない。

私自身だ。

「蒙…いえ、隊長。一曲聴いてくださいませんか」

自分自身を落ち着かせようと持っていた笙を蒙恬に見せる。少し気恥ずかしいが何故かこの時間を共有したいと思ったのだ。

「隊長か…なんか新鮮だね。勿論聴かせてよ」

逃げてばかりの私はもう終わりにしよう。自分の弱さに気づけた名はより一層魅力を増していく。優しい音色からは何か決意したかのように底からちらつかせるものを感じた。

prev next
Back to main nobel