落花流水

025


秦軍が魏に侵攻して2ヶ月、決戦の地・山陽の流尹(るい)平野に、廉頗・蒙驁の両軍が到着した。

初戦、先鋒隊は、秦軍は土門将軍が八千を率いて突入。そこには玉鳳隊の姿もあった。第二陣で飛信隊が現れた。

飛信隊、玉鳳隊が盛り返すも廉頗四天王・玄峰将軍の策にはまり、緒戦は惨敗。軍略家・玄峰の、盤上の遊びの如く戦場を操る戦術の前に、一方的にやられてしまう結果となった。

「玄峰…苦戦が強いられるのは間違いない」

「はい…しかし、それよりも警戒しないといけない人物も」

ほお…とその話に耳を傾けたのは陸仙。名は副将である彼の率いる隊に配属されていた。活躍の場がなかった楽華隊は本日の戦を客観的に分析しようとしていた。

「輪虎…彼は中々な曲者です。廉頗将軍が率いた戦で決定的な功績を挙げるのはいつも彼だとの事」

「へぇ…随分と詳しいようで」

「残党を捕まえて吐かせました。これくらいの情報なんて気休めでしょうが」

配下にあるはずの彼女がいつの間にそのような行動をしていたとは。機転が効く娘だと感じながらも、上司からすると一言欲しかったと苦笑いを浮かべる。

「虫も殺せない容姿してる割に容赦がない」

「ふふっ、褒め言葉として受け取りますね」

軽い皮肉も受けずに流すこの感じ。既視感があった。名は気にせず先ほどまで戦場が繰り広げられた広野を見つめる。

陸仙は名の事を疎ましく余っているわけではない。兵として臨時で加入する前、援護された時は機転の早さが尋常じゃないと評価していた。しかし、いざ自分の配下として共闘するとなるとその存在が謎めいていて、どうも距離の取り方が上手くいかない。

「どう接するべきかって悩まれてます?」

ふと発せられた言葉はまさしく今考えていたことで面食らう。そう、何事も見透かされている感じも何か引っかかってしょうがない。広野を見ていた彼女の瞳は陸仙の方を見つめていた。透き通った目だ。しかし、彼女の瞳は感情が読めない。波立つことのない水面の様に感情が浮き出てない気がする。表情はあるのに。

「なら、どう接するのが一番っすかね」

質問に対して肯定した言葉を投げ返す。彼女は俯いて少し考える素振りを見せた。

「今だけでも、楽華隊の一員として扱っていだけたら」

多分、これが初めて陸仙が見た彼女の素の一面だった。その言葉に温度を感じたからだ。

彼女はただ認められたいだけだった。臨時とはいえ楽華隊にいる自分の存在を。余所者として一歩下がって接せられる事に寂しさを感じていたのだろうか。そう考えると少し可愛らしく思えた。

「結構寂しがり屋だったり?」

「あら、バレておりましたか」

繕った笑みで平然とそう返すものだから、陸仙は堪えきれず吹き出して笑った。そして彼は彼女に対して抱いていた既視感が何なのかが分かった気がした。

「なんか、少しだけ似てるんスよね。うちの隊長に」

そう言うと、名は目を丸くして驚いた。

「意外。蒙恬殿は寂しがり屋なのでしょうか」

違う、そこじゃない。気楽な態度といい、全て見透かしていそうな雰囲気だと陸仙は内心で突っ込んだ。

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