落花流水

手に入れたいもの


呂不韋側にいる蔡沢の部下である兄に遣いを頼まれた。今までも忙しいまであったのに、それに加えて使者をしていたのだと思うと幾ら文官とはいえ忙しさのあまり体を壊すのではないかと思った。

今までは一人で抱え込んでいた仕事を時々名に頼るくらいには兄弟としての関係性は回復の兆しを見せていた。

それが嬉しいのか馬を走らせても足取りが心なしか軽い。

昌平君は自らが運営する軍事学校にいるとのことだったので今、その扉を開き、礼儀に沿って頭を下げる。

「蔡沢様からの書簡でございます」

「ほぉ…随分と見目麗しい使者が来たものよ」

「…りょ、呂不韋様!」

下げていた頭を上げるとそこには昌平君ととなりに呂不韋がいたのだ。まるで商品の品定めでもするような目つきに、体が無意識に一歩後退りをする。

「私めは蔡沢様の部下の妹である姓名でございます。」

「姓家か。兄の名も、主の名も聞いた事がある。優秀な兄妹じゃのォ」

恐れ大き言葉と言ってまた深々と頭を下げる。書簡を渡したので任務は終わったのだが、呂不韋にそれを拒まれて内心焦りを感じだした。呂不韋が自分を見る目がどうも嫌悪感を感じてしまったからだ。それを悟られないようにするにも早くこの現場から退出するのが最善だった。

「して名よ。お主は戦場よりも華麗な服で着飾る場の方が本来の価値を見出せると思うのじゃが」

また、退出するタイミングを阻まれた。呂不韋が何故その質問をするのか、裏が分からない。初対面からいい印象を持っていない名はこの場をどう乗り切るか考えていた。

「私は呂不韋様にとってどれ程の価値があるのでょう?」

「ハッハッ、地方の豪族と天秤にかけて釣り合うくらい、と言ったところかのぉ。今は・・

思っていたよりも自分に価値を持っていることに驚きはしたが、彼の心理は読めないまま。昌平君に目線を向け助けを請うが、下手に割り入れない方が良いと判断したのか目線を合わせようとしない。

「急いどるところ悪かった。もう下がってよい」

終始、呂不韋が話の主権を握り、振り回されたが権力者の軽い遊びだろうとあまり考えないことにした。

「…主が手に入れたい駒というのは、実に儂も気に入ったぞ。後宮にでも送るか、他国の権力者に嫁がせ実権を持たせればこちら側に確実に有利にことを進めれるというのに。戦場とは。実にもったいない」

「しかしながら、独学で兵法を学んでおり戦の才があります。知識に加え軍師としての機転の早さは飛び抜けている故、是非にもあらずといったところでしょう」

お前にしては随分と買っておるのぉ、と珍しい昌平君の姿を横目で見る。昌平君は顔色ひとつ変えず先程彼女が去っていった扉の方を見た。

prev next
Back to main nobel