落花流水

029


どうしてだろう。

「ぐぁあっ…!」

翌日、楽華隊として突撃し刀を振り回しながら考えた。過激な戦闘の中で頭では別のことで溢れかえっている。

「な、なんだこの女…!ガハッ!!!」

勿論、状況把握に抜かりは無い。楽華隊が全滅しないためには退路の確保が重要項目の一つだ。でなければ此処で窒息する。

『今日は激しい死闘になる』

普段激を言わない蒙恬が言った言葉を思い出す。ええ、そうですね。今日は少しばかり厳しいです。

『悪いがよろしく頼むよ、みんな』

貴方らしい言葉。楽華隊の隊士たちには十分思いが届いてるはずです。私も思わず高揚してしまいましたもの。

その激を聞いて、私はふと思ってしまいました。

嗚呼、此処にいたい、と。この人に着いて行きたいと。

「調子に乗るなよ女…!!」

おおきく振りかぶってきた男に名は守りの体制で待ち構える。斬ってすぐに襲い掛かるのは不可能な状況だったから。

「張り切ってくれるのは嬉しいけど、途中でバテられたら困るからね」

男の後ろから切り掛かって現れたのは蒙恬だった。普段より余裕のない苦笑いに近い表情を浮かべていた。

「ふふっ、自己管理ができていなければとっくの昔に死んでますよ。今日は無理しないとでしょう?」

「ハッ…頼もしい限りだねっ!!」 

お互いに刀を振るう手は止まらない。顔が見えずとも相互に想いは伝わっていた。バタバタと敵兵が倒されていく。

「隊長、3つ退路が確保できそうな箇所があります。頃合いが来たらこじ開けます」

「それはありがたいね。マジで助かる」

隊の中でも激しい戦闘の中心にいた蒙恬は退路を考えている暇などなく彼女の補助に安堵する。タイミングを掴むのが上手い彼女のことだ。言わずとも最も良い瞬間に作り出すだろう。それがあってこそ、蒙恬は攻撃の方に専念できた。

退路の確保にも成功し、飛信隊や玉鳳隊の攻撃によって輪虎を討ち取ることに成功した頃には大分体に疲労が出てきていた。

脇腹を刺されたのが響く。

しかし立ち止まる訳にはいかない。本陣が廉頗によって突撃されているのだ。蒙驁将軍を守るべく蒙恬が本陣の方へ馬を走らせるのを後ろから追いかける。

「っ…。はぁ、はぁっ」

追いかける背中は気を抜けば置いていかれる程の速さで走っていく。

置いていかないで。彼の背中についていきたい、自分の進む道に彼がいてほしい。

だから、痛みなんて感じない。

「はぁっ、はぁ」

追いかけるのがやっとだった。信殿が廉頗に立ち向かう中、私は息を整えるので精一杯。片腕をやられた蒙驁将軍に駆け寄り止血をするのが今自分にできる最大の事だと思った。

「ほほ…あの時のお嬢さんか」

「この節は大変なご無礼をお許しください。止血だけでも…」

蒙驁が向けた視線の方を見た。圧倒的な力量が廉頗の雰囲気から溢れ出ている中、一番近くにいる信が最も感じているのに、それでも立ち向かえる強さがとても眩しい。

「お嬢さんや、これで十分じゃよ。お主の方が酷い傷じゃろうに」

名は首を振る。そして信を見た。

蒙驁が越えられなかった壁が廉頗だとしたら、私の越えられない壁は味方にいるのだと感じる。あの3人がきっとそうだ。追いついたと思ったら彼らはもっと先にいる。そう思うと虚しくて堪らなくなった。

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