落花流水
030
「お、目が覚めたんだ。おはよう」
目が覚めると天幕の中にいた。起きあがろうとすると、ズキンと脇腹が痛む。なぜ今此処にいるのか理解ができず、そばにいた蒙恬の方を見た。
「戦は終わったよ。勝ったんだ、俺たちは」
起きあがろうとした私を蒙恬は宥めて横に戻させる。まだ傷が塞がっていないから安静にした方がいいと、蒙恬は起き上がったことで乱れた髪を丁寧に手で直す。
「…大分無茶したね。じい様の隣で倒れてた」
廉頗が去った後、蒙驁の側に駆け寄ると蒙驁は眉を下げて笑って、隣に倒れたお嬢さんを手当てしてくれないかのぉと言うものだから、視線を隣に移すとまさかの名だった。その時一気に血の気が引いた自分の心情を、まだ寝起きでぼーっとしている彼女は分かっているのかと、蒙恬にしては口調が強くなる。
「私…あの時、置いていかれると思いました」
出血が多かった事もあってまだ意識がしっかりしていないのだろうか。話が少し逸れているが蒙恬は指摘せず聞き手に回る。普段彼女が見せない心の内を見れるような気がしたからだ。
「いつもなら、諦めていたでしょうに。私、最近、変なんです…」
右手を顔の前まで上げてその手を見つめていた。そして蒙恬を見つめる。
「最近、生きたいんです。その訳が分かった気がする…ついていきたい…んだと思います。蒙恬殿に…多分」
「多分て」
目が覚めたら幾らか小言を言おうと思っていた蒙恬は一気に気が抜けてしまった。思わず失笑する。
手の力が抜けたかと思うと、規則正しい寝息が聞こえてきた。憎めない彼女の頬を優しく撫でた。
「蒙恬様も休まれたらどうですか」
天幕を出ると見張りをしていた陸仙が心配そうに声をかけた。蒙恬は軽く笑って大きく伸びをする。
「ふわぁ…うん、そうするよ」
「名さんがそんなに心配でしたか」
ニヤニヤと冷やかすように言うものだからムッとした顔で陸仙を睨む。
「大分名に無茶させてたみたいだからね、今は俺があの子の隊長だし、責任は感じてる」
楽華隊も大きく被害を被ったこの作戦。彼女の立ち回りにかなり助けられた点がある。重荷を背負わせた責任を感じただけで一晩中看病するかどうか、そこまで追及するのは野暮だと陸仙は肩をすくめた。
「めっちゃ美人っすよね。それに色気がある」
「まー、そうだね」
「男心を擽られるような…」
「ダメ、名をそんな目で見ちゃ」
それ以上は言わせないと蒙恬は陸仙の言葉を遮った。いつもなら軽い茶々を飄々と流す彼が珍しく焦りを見せるモノだから陸仙はいいネタを見つけたと内心思った。
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