落花流水
033
「ホホ、随分と男前になったのぉ」
「聞いておられたのですね」
てっきり先に他の部下とこの場を後にしているものだと思っていた彼は苦笑いをする。名と別れ、廊下の角を曲がるとそにいたのは蔡沢だった。
「すまんの。主に聞くことがあったのじゃが姿が見当たらず探してるうちに…しかし、納得した」
蔡沢の言っている事がよくわからず首を傾げる。すると、老人らしい笑い方をして彼の肩を叩いた。
「初めの頃、お主は行き場を求めて彷徨っとるように見えたんじゃよ。直属の部下に選んだのはそれが理由じゃ」
勿論、才能があってこその選択であることも忘れてはならないと付け足す。それに加えて居場所を求めてがむしゃらに仕事に勤しむ彼を救ってやりたいという気持ちも芽生えた。そこまで見抜かれていたとは、自分でも気づく事ができなかったというのに。
「しかし、今回は妹さんの方が一枚上手だったようじゃのぉ」
「名はいつも俺より出来がいいんですよ」
情けないと自傷気味に笑う彼と共に馬車の方へ向かうべく階段を降りていく。
「この兄妹は別々の秀でた才能を持っておる。協力することで姓家は歴代で最も優秀な人となろう」
名の武将としての才能、彼の文官としての才能。どちらとも蔡沢は見出していた。できれば妹も手駒として手に入れたいとさえ思うほどに。
「しかし、あれほど見目麗しければ寄ってくる男も多くおるじゃろう」
「年頃になると幾度かはありましたが、「私と勝負して勝てたら」と様々な勝負をして縁談を断るので…」
ある時は軍議、また違う人とは楽器を演奏して、そしてあろう事か力勝負で。彼女の教養の高さと戦いのセンスに勝てたものはまだいない。
「フォッフォッ、淑やかそうに見えたが意外とやりよる」
とんだ悪ガキだと兄は知っている。見た目が全てを誤魔化しているだけで、本来は女性としては芯のある強い妹であることも。
「彼奴が正面から向かってくるなんて珍しい…何か、見つけたのかもしれません」
名。お前が探していたものは見つかったのか。彼女の心境の変化が兄妹仲を改善させようとは思いもよらなかった。
随分と強くなったものだ。
「俺も負けてはいられませんね」
心地よい風が吹いた。蔡沢はどこか吹っ切れた彼の様子を見て、良い意味で影響されている事が分かった。
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