落花流水

034


それは束の間の休息であったが、戦の最前線から離れ、どこにでもいる普通の女として過ごした。兄との関係は少しではあるものの改善の兆しが見られ、ほんの少し会話をする事ができただけで彼女は嬉しそうだ。あとは時間をかけて修繕していくに限る。

「名、戦場から帰ってきたなら教えなさいよ。薄情な友達だわ…全く」

そう言って書斎に籠り書簡を読んでいたところを突如訪れた女に引きずり出された。お日様の光が眩しいからか、強制的に外に出された悔しさからか眉間に皺を寄せた。

彼女は屋敷が近く同じ士族であるためなにかと関わる事が多かった。武家の血筋だからか気の強い女で幼い頃は世界は自分中心に回っていると豪語していたこともある。

引き摺り出してどこに向かうかと思えば街で、しかも女性が好きそうな軽食屋だ。彼女は名を友達と位置付けている。反抗しない彼 名はよく我儘に振り回されていた。しかし名も悪い性格なわけでもなく全てど直球で来る彼女は他のものよりも尊敬していた。

「蒙恬様か王賁様には会えたの?」

「?ええ。よく知ってるけど…これ美味しいね」

よく知っている人の名前がどうして彼女の口から出てきたのかは分からないが、連れてきてくれた店の料理の美味しさには感激した。心なしか普段よりも目が輝いている。

「ええっ!いいなぁー!私は王賁様派よ。男らしいし、無口そうなところもいいわね。名はどっちなの?」

「甘豆羹も頼んでいい?」

「色恋よりも食い気か己は!」

名は彼女の話をあまり真剣に聞かない。彼女も自分の話を一方的に永遠と話し名の会話と一向に噛み合わないのだ。だから諦めて適当に話す事が最善だと考えた。

「で、どっちなのよ」

「どっちって…。どうして二択しかないの」

「流行に疎いわね。今若い女の中じゃあの二人の人気は相当よ」

そういえば、こういう話題が好きな子だったと、名は頭を唸らせる。名にとっては正直どちらでも良い。色恋で彼らを見ていないから男として自分の好きなタイプかどうかわからない。というか、自分の好きなタイプすらわからない。

「…確かにモテそうだね」

「どっちが好みなのよ」

「ええー」

答えない限りずっと続くのであろうか。間の抜けた声をあげると机の上に伏せて降参の合図を出すも攻める手は緩まない。

「君可愛いね。なんの話ししてるの?」

「えっ…や、その…」

伏せていたので友達が話しかけられている事に気づくのが遅れた。そして気の強い彼女が口籠もるなど珍しい事もあったものだ。ゆっくりと顔を上げていく。

「どうしたの…って」

「お友達もご一緒に…名」

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