落花流水
035
「やっぱ私蒙恬様にするわ!あの優しい感じ素敵。話しやすいし」
「節操ないなぁ」
そう名の耳元に囁く。少し同じ場で話しただけで彼女は蒙恬の虜になっていた。たしかに惚れる女性は多くいるだろうけど変わり身が速い。
「名はちょっと雰囲気変わった?甲冑着てないからかな」
甲冑を着ていない互いの姿は新鮮で、蒙恬は薄紫色の服を着て髪を小洒落た感じに結っている彼女の姿はとても良く似合っていると感じた。可憐な女性らしさで彼女にはぴったりだった。
「少し変われたかもしれません。ほんの僅かですけど」
雰囲気だけではなく内面も。そういう意味合いが込められていることを蒙恬は理解できた。それを聞くと「そっか」と微笑ましそうに笑った。
「蒙恬殿はあまり羽目を外しすぎないでくださいね」
「なに、嫉妬してくれた?」
こうやってすぐに茶化してくるのもだいぶ慣れてかわし方も板についた。端正に微笑んで見せる。
「戦場以外の場で刺されてしまうかもと」
女って怖いんですよ。と、言わずとも瞳がそう語りかけている。蒙恬は若干背筋に冷たいものが伝った。
「名は外面は淑やかで可憐ですが、蓋を開ければ冷徹で頑固な所がありますの。蒙恬様もお気をつけて」
長年培われた経験がモノを言う。何度そのような場面に出くわした事か。しかし、見た目の良さが全てを雲隠れさせてしまうのが、腹立たしいと頬を膨らませている。
「ハハッ、それは面白い。お友達との時間を邪魔して悪かったね。俺もそろそろ行くよ」
いつか、彼女が言うように心の内を曝け出すところを見てみたい、見せて欲しいと思ったが口には出さなかった。もともと用事があって街に出てきたため、それを済ませないといけない。
名残惜しいが、別れを告げて彼女らに背を向けた。しけしふと、この言葉は言っておかないととその時思った。
「またね」
「…!はい、また」
その言葉を聞いた名は目を細めてあどけなく笑う。その表情は戦場を駆け抜けるような猛者ではなく年相応の娘であった。
「アンタがあんなに気を許すなんて。ていうか、めっちゃ仲良いじゃないの。どういうことよ」
「ええー。それ全部答えるの?」
ガシッと力強く両腕を掴まれて逃げられない。逃がす気などないと言わんばかりの強情な友達。頑固なのは一体どちらだ。
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