落花流水
003
夕食になるといつもうるさい程賑やかであるはずの飛信隊が今夜は違っていた。各々が悔しさを噛み締めていたからだ。信もその一人であった。
「お通夜に誘われた覚えはありませんよ」
今夜は飛信隊と彼女の隊は合同で夕食を食べている。士族出身の彼女が率いる隊は王賁らとは異なる雰囲気を持ち合わせていた。無意識と下を向いていた信は顔を上げる。
「ああ、すまねぇ。今日はありがとな」
「感謝されることなどしてませんよ。ほら、お肉が冷めてしまいます」
丸太に座っていた信の隣に名は腰を下ろす。その動作も洗礼されていて、信は更に彼女が自分らを庇う理由が分からなかった。
「蛇甘平原の戦い以来ですね」
「!覚えてたのかよ」
ただの歩兵であった自分のことを。ただほんの少し話しただけだというのに。そのことに信は驚く。記憶力はいいほうだからと彼女は無難に受け流したが。
「凄い功績だったではありませんか。名前まで広まるなんて」
名も最初は耳を疑った。ただの歩兵がここまで一気に武功を上げるとは。そして、偶然今日出会った彼が、あの戦いで出会った男が、その信だったとは。
「一つ聞きたいことがあります」
彼女は信を見た。信は内心穏やかではない。今思えばめちゃくちゃ綺麗な顔立ちをしている。美女だ。そんな彼女に見つめられたら女になれていない信はぎこちなく相槌を打つ。
「信殿が戦に出る理由は何ですか」
理由。改まって聞かれるとは思わなかったその質問に、信の答えは決まっていた。
「天下の大将軍になる為だ」
名は信からただならぬ雰囲気を感じ取っていた。只者ではないとは思っていたが、真っ直ぐな瞳てそう言い放った彼の言葉を聞いて確信に変わった。王賁に無謀だと言われても仕方ないことこもしれない。しかし、そんな風に大きな目標を持ち、そこに向かって真っ直ぐに進んでいける信に羨ましさを覚えた。
「へぇ…いいですね。大きな目標があって」
「笑わねぇのか」
「まあ、他人事ですし…貴方なら本当になってしまいそうな気さえします」
聞いておきながら他人事と手を払う彼女にえっ、とうなだれるがフフッと初めて心からの笑顔を名が見せた。柔らかい笑みを浮かべた彼女に信は言葉を失った。
「夕食も食べたことですし、少し早いですが就寝とします。明日は夜明け前にここ発ちますのでそのおつもりで」
立ち上がると自分の隊にそう呼びかけた。
「飛信隊はこれから作戦会議でしょう。私達はこれで。今日は食事に誘ってくれてありがとう」
王賁に言われ、手柄も取られたままでいる飛信隊ではないことを名はこの少しの間に見抜いていた。それほど単純で良く言えば真っ直ぐな隊だと言うことだ。
信も質問したいことがあった。天幕に帰ろうとする彼女を呼び止めようとしたのと同時に彼女も言葉を発したので信はタイミングを失ってしまった。
「それと…私の勘って結構当たるんですよ。では、おやすみなさい」
そう言うと悪戯に微笑んでみせた。信は矢で射抜かれた衝撃を受ける。胸を鷲掴みされたような感覚だった。
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