塩味

12


「まさかね」

東堂ファンクラブの1人であるとある女子は思った。東堂と名前の間に入り込める隙間などなかった。

1人なら。

大人数で鉄壁を丸太棒でこじ開ける。今はそのような現状だと予想できる。
かなりの力技に名前ひとりでは、いくら彼女の冷静な感情にも堪えるものがあるだろう。

「なんか、名前さんが可哀想になってきた」

「名前さんの方にも東堂様と拗れた事をチャンスに告白してくる人結構いるらしいよ」

東堂はファンサービスを怠らないため、アイドルのような人気がある一方で、名前も容姿と媚びない性格から好意的にみている者は多くいた。

目立つ2人のスキャンダルはすぐさま全学年に広まっていく。

「東堂様の彼女ポジ…喉から手が届くほど欲しい…けど、名前さん以外だと、許し難い…かも」

「うむ、俺も名前以外考えられんのだよ」

「それな…って東堂様⁈」

女子2人の会話にさらっと入ってきたのは自分たちが推している男、東堂尽八だった。

「名前がモテていることは知っている…それに振り返る事なく俺の事が好きなことも…」

この人は相談をしにきたのだろうか、こんな状況で惚気にきたのだろうか。困惑しながらも顔がいいから、話せるだけで嬉しさが込み上げる。

「東堂様を好きな女子が多すぎて、疲労困憊なのではないでしょうか…」

「登れる上にトークも切れる。更にこの美形…天はオレに三物を与えた。ファンも勿論大切にするし名前もそれを認めていた…だが」

モテすぎて困ることがあるなど滅多にない事だろう。美しさをもって生まれてきてしまったことへの罪なのか。

窓から見えたのは箱根の山々。

と、下校している名前。最近は受験に向けて自習室に行っている。大凡、今日も自習をして帰るのだろう。

「それを振り払える程、俺も名前の事が好きなのが、伝わっていないのだろうか」

彼女を見つめる瞳は淋しそうで、普段の自信に満ち溢れた東堂とは真逆であった。


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