塩味

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『2人で何の話をしてるの?』

翌日のことだった。昼休憩が始まるチャイムの合図とともに名前は東堂の席へと近づいた。滅多に居合わせることを見たことがない組み合わせに周囲は騒ついている。

東堂も驚きを隠せず、糸川は美人で評判の彼女をこんな間近で見れることが信じられず口をあんぐり開けていた。

『苗字さん⁈じ、実は俺ら、自転車のレースでるんスよ』

名前は最近この2人でよく何かしら真剣に話をしているところを見て声をかけた。東堂について知りたいという好奇心が、普段自分から話しかけることは滅多にない彼女を駆り立てたのだ。

同級生で且つ同じクラスだというのに糸川はしどろもどろで敬語で答えた。名前は何で敬語?と疑問に思いながらも指摘するほどのことでもないと流した。

『そ、そうだ!苗字さんもレース見に来ませんか!尽八、初心者なのにかなりセンスあって…』

糸川から東堂へ視線を流すと、澄ました顔で否定しないところが彼らしかった。汗をかくから嫌だとか言わないんだと名前はレースに出ることを意外に思った。

2人を見たところレースに誘ったのは糸川くんの方だと推測した。推しの強さか、熱意に負けたのか東堂くんも賛同したのだろう。

『うん。行ってみようかな、なんて』

『『⁈』』

まさかすんなりと承諾されるとは思っておらず2人は驚いた。ましてや女子人気の高いサッカー部の林が出る試合を誘われても見に行かなかった彼女をこんなにあっさり頷かせるとは東堂、お前って奴は…と幼馴染ながら全てにおいてなんかズルいと糸川は悔やんだ。

(お前いつの間に苗字さんと仲良くなったんだよ…⁈)

(む…昨日話したばかりだ)

(昨日⁈)

ヒソヒソと話す2人を見て、コレ行ったらマズイヤツだった…?と不安になってきた。昔から自分で動き出すことがなかったから、距離の詰め方を知らないのだ。無意識のうちに非常識な事をしてしまったのかもしれない。

『…ごめん、嫌だったら『いや、観に来るといい』…?』

そう言うと私の右手を両手で包み込んだ。突然のことで硬直してしまう。濃い紫色の瞳が私を見つめて、余裕の笑みでこう言った。

『絶対つまらなくはないぞ。俺が出るのだからな』

『!』

すぐに彼の手は私から離れていった。私は少しの間、人の温もりがあった右手を見た。形容し難くて心の奥底から湧き出してきた感情を私はまだ理解できるほど大人ではなかった。

(お前…ほんとズルいぞ。無意識か?無意識なのか?)

(俺の魅力は無意識のうちに溢れてしまうのだな、隠したとしても…)

(否定できないのが余計ムカつくんだよなぁ!!)

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