塩味

03


「ちょっと頼んでもいいか?」

廊下を歩いていたところ、片腕を掴まれた。振り向くと新開だ。手加減してくれてるからか、掴まれた腕は痛くもない。そこに器量の良さを感じながらもいきなり頼み事とはどうしたものかと首を傾げる。

「要件次第だけど」

多分無意識でしてきたのだろう。学校全体で人気のある彼から頼み事をされて頷かない女子なんて滅多にいないから。名前はそういう面では流されることはない。人によっては塩対応とも捉えられ兼ねない言動で分け隔てなく接する。その塩加減がたまらないと一部の性癖を持つ男子からの定評さえあるのだ。

「急遽昼に部活のミーティングをすることになっちまってな。うさきちの餌を持っていこうと思ってたんだけど行けそうにないんだ」

「うさきち…」

新開が連れてきた子うさぎ。すくすくと育っているらしいと東堂から聞いてはいたものの、新開からその話題を直接聞くのは初めてで、ちゃんと世話をしているんだなと関心した。

「いいよ。だけどいつになったら手を離してくれるの?」

「おめさんがいいよって言ってくれるまで離さないつもりだったよ」

コイツ。最初から頼みを聞かせる算段だったのだ。名前はしてやられたとは思ったが、自分の彼氏のチームメイトの頼みだ。穏便に済ましたい。

「ただのイケメンだと思ってたけど案外計算高いのね」

「ヒュウッ。イケメンだなんて、彼氏が聞いたらうるさくなりそうだな」

すっと掴んでいた手が離れていった。代わりにおおよそ食堂からもらってきたであろうにんじんとキャベツの入ったビニール袋を渡された。

「ちなみに尽八のどこが好きなんだ?」

単なる好奇心で聞いてきたのだろう。どストレートな質問に名前は正直に言うか、上手くかわそうか悩んだ。しかし、ふとある記憶が遮り、小さく笑みが零れた。

「…強さ」

それはロードレースに対する強さか。はたして、また違う強さかは聞き返しても答えてはくれないと新開は感じた。

「遅いぞ、新開」

時間より早めにきていた東堂から注意を受けるも、すまんと軽めに流しながらふと、先ほどまで握っていた腕のことを思い出す。

「いい彼女さんを持ったな、尽八」

「きゅ、急にどうした。名前がどうかしたのか?」

いきなり彼女を褒められたものだから一瞬だじろいたが、新開からは珍しい話題に疑問が浮かんだ。

「うさきちの餌やりを引き受けて貰った」

「俺の彼女をパシるな!」

名前が関連する話題になるといつもよく動く口がさらに速度を増す。思わず面倒事を自分から持ち出してしまったことを後悔する新開だった。

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