塩味

04


食堂にいたのは東堂さんの彼女として有名な苗字名前さんだ。美男美女と称されるこのカップル。彼女を実際に見るのは初めてだったが、噂は本当のようだった。めっちゃ綺麗な人だ。

「あ、先に食券機使ってください。私、まだ決まってないので」

指を顎に置きながら真剣にメニューを選んでいる。クールな印象だったが、一つのメニューを選ぶのにこんなに悩んでいる姿は可愛らしかった。言葉に甘えて先に利用させてもらうが、ボタンを押すまで彼女から目が離せなかった。

「ちなみに何で悩んでるんすか」

「んーと、カレーかラーメン」

けっこうガッツリいくんだなと思ったが、この見た目だから全部プラスに働いてしまうんだと思う。うん、かわいかった。東堂さんが羨ましい。

「よし、ラーメンにする。黒田くんは何を買ったの?」

「あ、え?俺…は」

彼女は決意を固めたのか食券ボタンを押した。

待った。俺の名前、知ってたのか。突然名前を呼ばれたものだから、その質問に答えられなかった。挙動不審だったと思う。自分でもダサいと思ったよ。

「ふむ、チキン定食か。バランスの良い食事を選んだな黒田。それに比べ…」

どこから湧いて出てきたと言わんばかりの名前さんの表情。意外と表情豊かなんだなと思っている場合ではない。ちょっとした修羅場に巻き込まれてしまったのではないだろうかという危機感がよぎった。

「いつもいつもラーメンばかり選ぶなと言っただろう名前!」

え、突っ込むのはそこ?先輩の女に手を出した(話しかけてきたのは彼女の方だったが)と言われてもおかしくない状態で出てきた言葉はそれだった。

「今日はカレーと悩んでたの」

「どちらにせよジャンキーだな。俺の塩サバ定食と交換だ」

「嫌」

ふいっとそっぽを向いてしまった名前さん。大人っぽい印象と真逆の仕草もギャップがあって可愛かった。

「じゃあ、友達が待ってるから行くね」

バイバイと、最後には軽く微笑んでその場を去っていく。東堂さんもそれに応えて手を振りかえす。一緒に食べるわけじゃなかったのか。

「折角だし黒田、一緒に食べようじゃないか」

「あ、ウス…」

互いに今日は一人だった。定食を受け取ると先に着く。少し気まずかった。

「彼女さん。ロード好きなんですか?」

「いやそこまでは…強いて言うなら俺のことが好きだ」

真面目な顔してそんなこと言うから、この人も残念なイケメンだと感じざるを得ない。綺麗に魚の骨を取る姿も様になっているの言うのに。それならなんで、名前さん、なんで俺の名前知ってたんだろ。

「俺のことが好きだから、部員の名前は全て把握している。クライマーの後輩なら尚更だ。他意はないぞ」

考えていることは全部筒抜けだったようだ。全てを知った上で嫉妬するまでのことではないと判断したのだろう。この二人の信頼関係はかなり深いようだった。

「次名前を見つけたら問答無用で定食を買わせてくれ。ほんと、ラーメンしか食べないのだ」

はぁぁぁ、と深いため息をつく。しかしながら、呆きれなんかよりも、その瞳は愛おしい人を考えているのがわかる、優しい瞳をしていた。

「俺の彼女、かわいいだろ」

これってなんて答えるのが正解なんだろうか。肯定しても、先輩の彼女を色目で見てしまったことになるし、否定をすれば名前さんと東堂さんにも失礼だ。どうする、どうする俺。

背中に汗が伝う。俺は今、究極の選択を迫られているのだから。

「ワハハハハ。そう縮こまらんでも良い!花を見て美しいと思うように、名前を綺麗だと思うのも必然だからなっ」

どっと肩の力が抜けた気がした。ほんとにこの人は彼女のことが好きなのだと思うと、やはりこのカップルが学校全体から支持されているのかがわかった気がする。入る隙間もないほどこの二人は互いが好きなのだろう。

「ちょ、黒田くん」

先に東堂さんが席を去ると、それを見計らったように名前さんが来た。ヒソヒソと小声で訴えてくるから当然距離は近い。

「な、なんすか…」

「あのキザなセリフ、大衆の前で大声で言わないように、あの人注意しといてくれないかな。いつも、いつも恥ずかしいのよ?私…」

俺を挟まず二人でやってくれないかと喉まで出てきた言葉をなんとか堪え、頷いた俺に誰かいい彼女をください神様。

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