星屑
04
「や、名前ちゃん」
「誰かと思えば新開かぁ…」
見覚えのある顔がスーパーに訪れた。商品の品出しをしていた彼女は、中学と高校が同じである新開を見ると大学で実家を出た感覚が狂ってしまう。合わせたわけでもないのに進路がかぶってしまう腐れ縁に彼女は溜息をついた。
「なんで私の進学先は自転車競技部の強豪校ばっかりなんだろう。意図してないのに…」
「ははっ。寿一もいるよ。これを機にロード乗りなよ」
「ごめんね。うちにはチャーリーがいるから」
箱根学園に通学していたとき、彼女の愛用自転車は電動自転車であった。あのきつい坂を毎日登らないといけないと思うと苦痛でならなかったため、親に入学祝いで買ってもらったものである。
それに名前をつけるほどには彼女はその自転車を愛用していた。名前は「自転車のチャーリー」。それは大学に進学してからも大切に乗っていた。
「新開達強いからレギュラー取れるんじゃない?」
箱根学園は自転車競技部の強豪校。王者と言われるまでの圧倒的な強さで校内でも有名だった。去年は準優勝に終わってしまったらしいが、それでも何も知らない私から見ても彼らの強さは知っていた。
「…色々弊害はあるけど。それでも実力で取ってみせるさ」
その間は気になったが、彼女と新開の間にはそこまで踏み入れる程の関係性はないため口には出さない。なんたってただの腐れ縁であって、関わりが深いわけではなかったからだ。軽く会話をする程度その関係を今まで平行的に保ってきた。
名前は新開と普通に話が出来ることを羨ましがる同級生は多くいたが、名前は不思議そうに首を傾けるだけであった。お互いの事は軽くしか知らない。ファン達の方がよっぽど詳しいであろうに。
私と新開の間にはないもない。何もなさすぎて私はファン達と彼を繋ぐ仲介役に抜擢されてしまった。ファンが認める程、彼に対して恋愛的要素を持ち合わせていないからである。プレゼントやファンレターを新開にただ渡す。それ以外に深く関わりを持とうとしない事からファンからの信頼は厚かった。解せない。
「それじゃ。私はこれ以上サボっちゃうと怒られちゃうから」
「ササキ」とカタカナで書かれた名札には研修生というマークが付けられていた。働き始めは誰もがつけるであろうそれは、大学生がつけると初々しい印象を持つ。
「OK。悪いね、呼び止めて。いつかレースでも観に来なよ」
「ううん、平気。いつかね」
このやり取りは何度もやったことがあるが、彼女はレースに行ったことは無かった。その日のレースのために練習を積み重ねてきた彼らを見ると、何もしてない自分が虚しくなると思っているからだ。
そのまま、新開は買い物の続きを始めた。そして彼女は手を止めていた分、スピードを上げて品出しを再開した。ね、ホントに何もないでしょ。
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