第一章






小さい頃、お父さんにお母さんには内緒でワイルドエリアに連れて行かれていた時期がある。彼はその時代、名を馳せた強いトレーナーで、バトルが大好きな人だった。そんなお父さんは、娘の私にもバトルが好きになるように英才教育を施そうとしていたのだろう。実質、彼のバトルはトリッキーで面白かった。まあそれでも同伴とはいえあの歳の子供をワイルドエリアに連れていくなんて正気じゃないと今なら思うけれど、私にとっては野生のポケモンとお父さんのバトルを間近で見れるこの秘密の散歩が大好きだった。
そんな散歩を続けていたある日、その子を見つけた。
「お父さん、あの子どうして一人なの?」
その日は何故かトレーナーが多くいる日だった。どうしたんだろうねと首を傾げていたら、三人のトレーナーが小さな影を囲んでいた。その影にいたのは、ここのあたりでは見かけないはずのドラメシヤ。傷だらけでボロボロな彼は、その反面周りで彼を捕まえようとするトレーナーたちを威嚇するかのように睨みつけている。その風貌は最弱と言われるドラゴンタイプのヌメラよりも弱いというふうには到底思えなかった。
「きっと、群れからはぐれたんだろうな」
かわいそうに、と苦々しくいうわりに、お父さんはトレーナーたちのポケモンの猛攻から逃げ回る満身創痍のドラメシヤを助けようとはしなかった。どうして助けてあげないの?と聞くと「こういうのは、あまり横から手出しをしないものなんだよ」と苦笑された。その言葉はよくわからなかったけれど、なんとなく重たいものに聞こえて、痛みに震えるドラメシヤを見つめる。きっともう限界だろう。どうしてあんなに捕まりたくないのかはわからないけれど、あれだけ苦しそうなのに逃げることを諦めない姿は何故か強く印象に残る。あまりにも捕まらないドラメシヤに焦れたあるトレーナーが、フェアリータイプの技で一気に叩こうと言い出したようで、ポケモンたちが一斉にフェアリータイプの技を放とうとしたその時。
彼は、飄々と笑ってみせた。
お前らなんかに自分は捕まらないとでもいうように、獰猛な目つきで笑うのだ。
「お父さん、」
気がつけば、隣で見守るお父さんの袖を引っ張っていた。
「お願い、あの子を助けてあげて」
お父さんは驚いたような顔をしたが、何かに取り憑かれたように真っ直ぐ目を離さない自分に心を動かされたのだろう。彼の相棒をすぐさまボールから出して、フェアリータイプの猛攻を受けて今にも倒れそうなドラメシヤを救って見せた。
目を見開いてこちらを見つめる彼の顔を、今でも覚えている。

あのトレーナーたちを追い払った後、あまりこんなことはしたくないんだけどなと苦々しく言いながらも、お父さんは助け出したドラメシヤをポケモンセンターに連れて行ってくれた。突然運び込まれた傷だらけの姿にびっくり顔をしたジョーイさんに慌てて連れて行かれるドラメシヤを見つめる。
「どうするんだ、あのドラメシヤ」
お父さんは静かに聞いてきた。捕まえるのか、逃すのか?と聞いているのだろう。私も、もう少し経てば10歳になる。旅立つ時は近い。そろそろ自分のポケモンを手にしているべきだ。ただ、考えるのはあのドラメシヤのことだった。大丈夫かなと心配する気持ちはもちろんあったのだけれど。あの、こちらまでもを飲み込んでしまうようなドラゴンの瞳が何故だか忘れられなかった。どうやら逆境でも土壇場まで立ち回って見せたあのドラメシヤに魅了されてしまったらしい。けれど、自分のポケモンにしたいかどうかと言われると、何か違う気がした。
「・・・・・・」
「まあ、あの様子だと完治するのには時間がかかるだろうから。ゆっくり考えてみろ」
そう言ってお父さんは、私の頭を撫でた。
それでも、私の目は連れて行かれたドラメシヤの瞳を忘れることができなかった。

それが、一番最初の記憶。