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夢を見た。ずいぶん懐かしい頃の夢を。昔の話だ、私が彼に出会った最初の日。
くるる、と落ち着いた鳴き声で目が覚めた。
目の前には呆れたような相棒の顔。いつのまにやら眠っていたらしい。キャンプ中に自分の相棒がふらりとどこかへ行くのはいつものことだったが、まさかワイルドエリアで眠ってしまうなんて。気が緩んでるのかなぁと苦笑する。そうすれば笑い事じゃないとでもいうように、体を屈めた彼から頬をペチペチ叩かれた。ごめんって。
「やー、ハジメくんさ」
デカくなったねと声をかけると訝しげにこちらを見つめ、やがていつものような飄々とした笑みを浮かべる。え、ちょっと待て何その顔、多分誤魔化すためなんだろうけど今その顔する必要ある???
うちの相棒、今はドラパルトとなったハジメくんは、幼い頃ワイルドエリアで数奇な出会いをしたドラメシヤだ。群れからはぐれボロボロに傷つきながらも決して折れなかった誇り高いドラメシヤ。それを父とともに助け出し、人のトレーナーになりたがらなかった彼を完治するまでうちで預かることになって数ヶ月。その期間全く人に懐こうとしなかったけれど逃げもしなかった彼が何故だか旅立ちの日、我が物顔でボールに入っていったという事件を経て私のポケモンとなったハジメくん。あの時のしてやったりというようなニヤリとした笑みが忘れられない。最初はどういう気まぐれかと思っていたが、どうしてか彼は私のそばを離れることはしなかった。私の無鉄砲さや突拍子のない思いつきに呆れ半分驚き半分な顔をすることはあれど、付き合ってられないと見捨てることだけはしなかったのだ。そんな付き合いが続き、ニィと感情の読めない笑みを浮かべて呆れられたり馬鹿にされることもあるが今となっては立派な相棒である。
「にしても、ハジメくん何してたん?テント張ってる間にいなくなるからびっくりしたよ」
キャンプ中に彼がいなくなるのはいつものことながら、早めにいなくなったのは初めてのことで驚いてしまった。別に逃げているわけではない(彼が本気で逃げるなら、モンスターボールは壊されているだろうし)とわかっているとはいえ、流石に心配になる。だがまあ、彼がいなくなって何をしているかはなんとなくはわかっているのだけども。
伸びをしながら聞けば彼はころころと手に握っていたものを取り出した。
「げっ・・・・・・ちょ、また⁉︎どこで見つけてきたのさ!」
そこにあったものはきんのたまや大きなキノコにほしのすな。さらにはおだんごしんじゅすらある。どれもこれも、換金すれば高額なお金になるものばかり。それが小さな山になって自分の目の前に置かれていた。
そうなのだ。うちのハジメくんは換金できるアイテムを見つけるのが非常にうまい。ものひろいの特性は持てないはずなのに何故だかお金になるアイテムをどこかから拾ってきたりバトルした野生のポケモンの持ち物を半ば強奪したりと、なんでそこまでするんだと思うくらいにはお金に目がない。キャンプしている時にフラつくのも、お金になるアイテムを集めているからなのだ。毎回毎回集めてくるので「せめて一個にして!」と泣きついてからは渋々、本当に渋々と言った様子で一個ずつ持ってくるようになった。いや別に私間違えたこと言ってないよね???
それが、今日は小さな山ができるくらいに目の前にある。彼が約束を破ったことか、それとも見つけにくいアイテムをこれほどまで簡単に見つけたことに関してか、多分どちらのことにも絶句している私にハジメくんはふんと鼻で笑ってぐいぐいと押し付けてきた。
「え、ほんと、え?って受け取らないからね⁉︎そんなに押し付けてきても絶っ対受け取らないぞ!こんな大金になるもの一人でどうしろっての!」
叫びながら首を振るとチッと舌打ちのような音が聞こえた。今舌打ちしたな⁉︎私一応トレーナーだぞ!ビタンビタンと尻尾を打ち付けながら押し切ろうとするハジメくんと、慌てて拒否する私。そんな攻防を繰り返して、ようやく彼は諦めたようにため息を吐いた。やった、諦めてくれた?とホッとしたのも束の間、そっと差し出されたのはすいせいのかけら。そしてそれを服に押し込まれる。
沈黙がその場を支配する。
「っだから!そういうことじゃなーい!」
私の叫び声が木霊した。困っている私を見透かしたようにハジメくんは笑った。めちゃくちゃいい笑顔だった。解せぬ。

結局、ハジメくんに押し切られてしまった。
換金できるアイテムを勝手知ったるとでもいうようにリュックサックに押し込まれ、これからお金になるんだからいいだろ?とでもいうような堂々とした顔をされればなんやかんや彼に甘い私は許してしまう。ダメトレーナーというなかれ、だってそのドヤ顔プライスレス。かっこいいよ私の相棒!
「全くさぁ・・・・・・全部お金があればいいってもんじゃないんだからね」
「きゅう」
「そりゃあったほうが困らないけど・・・・・・でも流石にこんな量の換金アイテム、」
「ぎゅううう」
「わ、わかった、わかったよ。受け取る。受け取るから締め上げるのやめ"っ」
「きゅ」
うるせぇ黙って受けとれこの馬鹿女と人間だったらいうんだろうな。っていうかそんな感情の籠った鳴き声出せたん?下半身を私の腹部から脚にかけて巻きつけてぴっとりくっついた彼は諦めたようにため息を吐いた私にそれでいいと頷いて見せる。
「まあ。ありがとう。私を喜ばせたくて持ってきてくれるんだもんね」
「きゅう」
「でもたまには、別のものを取ってきてくれてもうれしーかなーなんて、いってみたり」
「きゅ?」
何言ってんだこいつというような顔で首を傾げられてしまった。うーむ、この子。どこぞの守銭奴のような考え方をしてらっしゃる。まるで人間が中に入っているかのようだ。
ドラゴンタイプは賢い子が多いから、どこかで見て覚えたのかな。いやいやそれにしたって、とうちのハジメくんの教育について頭を悩ませていれば、巻きつけてくる力が強くなる。グェ、苦しい苦しい。ばんばんと尻尾を叩くがますます力は強くなる一方だった。
「ハジメくん?」
何考えてるんだこの子。いやいつものことではあるけど。ハジメくんの顔が見たくて後ろを向き首を傾げるといつもの胡散臭いくらいの微笑みはなりをひそめていて、代わりに怖いくらいの真顔だった。え?とその顔を凝視すると全身で抱きしめられてパチパチ目を瞬かせる。どうしたんだこの子、といつも以上に何を考えてるのかわからない真顔を見つめるけれど、彼は何も言わずに下半身をきゅっと閉めてくる。だから苦しいってんねん。
「グゥ、・・・・・・きゅば、ぱるる」
あ、この声、前にも聞いたことあるな。っていうかこの時期になるといつも聞くような。ハジメくん、と声をかけるとすりすり顔を寄せてくる。きゅばきゅばと甘えたような声を出しながら全身で抱きついてくる姿は、苦しくてちょっと困るけれどまあ可愛いからいっかなと思考を放棄した。
そうして、安心し切った私は眠りについた。
ちょっと思考放棄しすぎでは?とかは言ってはいけない。