「なん・・・・・・だと・・・・・・⁉︎」
ジリジリと照りつける太陽を背に、えっちらおっちら歩いていた休日、所詮日曜日。
美味しいと噂のカレーを食べたくて、足を伸ばして駅のほうに来たのに、なんとそのお店は今日に限ってお休み。
「なんてことだっ・・・・・・」
なんで!いつも美味しくて行列ができるくらいの人気店って言ってたのに!なんで今日に限って臨時休業なんだよ!そしてなんで私も調べなかったんだ!いや調べたとしてもわからんわ!
脳内でやいのやいのいいながら地団駄を踏む。きっと傍目から見たら頭のおかしなやばい人に見られているだろうが知ったことか。はぁとため息をついてこれからどうしようかと頭を悩ませる。今日はこのカレーを食べるためだけにきたと言うのに、これでは今日の用事が全てなくなってしまったではないか!
ええい仕方ない、こうなったら駅の方の探索でもしようとカレー屋に踵を返しきた道を戻ろうとした時、声をかけられた。
「ねーねー、君今ひま?」
「暇だよねー?だったら俺らと遊ぼうよー」
へ?と顔を上げれば目の前には俗に言うチャラい格好をした青年二人が立っていた。きょとんとした顔で見つめれば「わーかわいー」とか「え、近くで見るとめっちゃいいじゃん。俺らあたり引いたんじゃね?」とかで騒いでいる。なんのことか分からなくてきゅっと眉尻を寄せるが、彼らはニヤニヤと笑いながら話しかけてくる。
「いいじゃーん一緒に遊ぼ?そんな顔吹っ飛ぶくらいの遊び教えてあげるよ?」
「いや、」
「そうそう、それにどっかいくなら俺らがなんか買ってやるからさ!食べ物でも服でも!」
「で、でも」
「そのかわり君は俺らと遊んでくれればいいから、ほらwin-winってやつだろ?」
「え、えっと、あの・・・・・・」
だめだこれ、勢いがすごい。というか人の話を聞いてくれない。困り果てて後ずさるがそれに気がついた男の一人が腕を掴んできた。うわ、と顔を歪めると「かわいーなれてないんだ?」「大丈夫大丈夫!怖いことなんてしないからさ!」とあまりに品のない声で笑うものだから、なんだか怖い。助けを求めて周りを見回すが、見て見ぬ振りをするか気まずそうに目を逸らすか。ダメだ、助けは見込めない。彼らに付き合うか振り切って警察まで走るかが一番手っ取り早いんだろうが、そんなことをして自分はちゃんと家に帰れるのだろうか。あの、倒しても倒しても追いかけてくるワイルドエリアのキテルグマみたいにファイアーの如く蘇ったりしない?大丈夫?これ。ぐるぐると考えている間に男たちは「可愛い子確保〜」「さ、遊びいこーねー」と肩を抱いてきて、どこか気持ち悪い感覚が残った。ああ、どうしよう。ぎゅっと目を閉じた時だった。
「スミマセーン」
どこか飄々とした声が聞こえて、その後にドガッという鈍い音が追いかけてきた。え?と恐る恐る目を開けると、私の肩を抱いていた男性の一人が倒れていた。思わずぽかんとその様子を見つめると「なんだテメェ!」なんて怒鳴り声が聞こえて、それがもう一人の方の男性の声だと言うことに気がつく。ああ猫かぶってたんだなぁと言う感情が他人事のように脳裏に宿って、でもその瞬間にまた男性が何かに吹っ飛ばされて倒れている男性に折り重なるように倒れ込む。え、え?突然のことに目を白黒させる。なんでいきなり?と意を決して振り向く。そこには、爬虫類を思わせる顔つきをした男の子が立っていた。スタスタと私の横を通り過ぎ、呻き声をあげる男性二人になにかをささやいている。みるみるうちに真っ青になる二人に何かを渡し、無理やり体を押してその場から立ち去らせていた。慌てたような様子で逃げる男性たちに男の子は舌打ちし睨みつけている。助けてくれた、んだろう、か。でもそれにしては、目はギラギラと血走っていて、今にも唸り声を上げて飛びついていきそうな様子に見える。ふと、何故か既視感が走った。あれを見たのはいつだっただろう。私が他のトレーナーにいちゃもんをつけられていた時に、誰よりも大事な相棒がそのトレーナーに食ってかかって行こうとしていた姿に。
「売約済みどころか永久非売品だ馬鹿野郎」
吐き捨てるような低い声が、前世嫌と言うほど聞いた苛々とした鳴き声に重なる。まさか、そんなわけないのに。思わず凝視すると、呆然と見つめる私に気がついたのか目線を上げる彼と目があった。目線が絡む。あんなに野生のドラゴンタイプの最終進化系のような顔をしていた彼の顔が綻ぶように華やいで、ニンマリと笑みを作る。知っている。昔から、私を見つけてこうやって微笑むのは。この世でたった、一匹だけ。
「ハジメ、くん」
小さく声をあげる。自分でも笑ってしまうくらい頼りない、震えたような声。思わず漏れ出た声に自分でも驚いて、口を覆う。何言ってるんだろう。だってあの子が、こんなところにいるはずないのに。初対面の人に名前を呼び間違えるなんて、頭がおかしい奴だと思われてしまう。
「ご、ごめんなさい!いきなり・・・・・・、私の、大切な子に似てたので、・・・・・・でももう会えない、から、つい、」
ああもう、居た堪れない。助けてくれた彼にはなんの話だと言う感じだろう。彼に似ている人に嫌な顔をされたらどうしようと思うと怖い。ハジメくんと似た表情で「なんだこいつ」とか思われていたらきっと、立ち直れない。真っ直ぐ顔が見れなくて俯きながら頭を下げる。
「助けてくれて、ほんとにありがとうございました。何もお礼はできないので申し訳ないんですけど、でもほんとに」
「お礼って言うならさ、顔あげて?」
必死に言葉を連ねる私に、男の子は優しく声をかけてきた。その声に混ざる甘さに驚く。どうして?どうしてそんな、大切なものを呼ぶような声で。でも、とかだけど、とか口にして首を振る私に彼はいいからと強い口調で肩を叩いてくる。先程の男性たちよりも嫌悪感がないのは、やっぱり大切な彼と似ているから?結局、押し切られてゆっくり顔を上げていくと私が想像していたような嫌悪感丸出しの顔ではなかった。やっと顔が見れたと嬉しそうな顔がそこにあった。なんで、なんでそんな顔するの。初めて会った人なのに。
「よぉ、この姿では初めましてだな」
「え、」
「おいおい、ひでぇなぁ。自分で名前を呼んでおいて、もう忘れちまった?」
目を見開く。まさか、そんなわけ、
「ああ、でも。前の時とは随分ナリが変わったから言わなきゃわかんないか?でも名前を呼んだってことはオレのこと、ちゃんとわかったってことだもんなぁ」
くるると喉を震わせて笑いながら、とろけるような声で「ボス。オレのサラ」と呼ぶ。躊躇なく抱き寄せられて足同士が絡む。まるでもう二度と離さないとでも言うようにきつく、全身で抱きしめられた。すり、と頬を合わせて擦り寄られる。ああ、もう。このまま死んでもいいかもしれない。だってこんな人が通る道で全身を寄せてくるような仕草をしてくるのは、私は一匹しか知らないから。
「・・・・・・ハジメくん、」
「ん?」
「なんか、大胆だね」
「っは!大事な大事なボスが、こうやってオレの腕の中に帰ってきたんだ。今日くらい浮かれたって許されるだろ?」
それより、何か言うことはないのか?そうやって首を傾げる彼に、泣きそうなのを堪えて笑う。
「会いたかったよ。ハジメくん。今度はちゃんと一緒にいてね」
「オレのサラ。二度と離してやるものか」
こつりと額同士をくっつけて、くしゃりと笑った。
転生したら私の相棒が人間になっていた
「さて、お前。何食べたい?」
「え?」
「奢ってやるよ」
「え、いいよ!むしろ私が助けてもらったのに・・・・・・私が奢るよ!」
「はいはいボスは黙ってろ。あーでもそうだな、久々にあったんだ。その無礼講ってことでいいだろ」
「でもさぁ」
「それともサラは、オレに恥をかかせる気か?女に奢らせるふてぇ男って周りに思わせたい?」
「うぐ」
「な?いいだろ?」
「わ、わかった・・・・・・よろしくお願いします」
「ん、OK。じゃあ何食いたい?」
「カレー!」
「カレーね。じゃいくぞ」
「うん!・・・・・・って待って待って待ってハジメくん!そっち高級店が並んでるところ!待ってってば!」