私のお父さんは、ガラルでも指折りのトレーナーだった話はしたと思う。元々は違う地方の出身だったお父さんは、自分のバトルの腕をより磨くためにこのガラルまではるばるやってきたのだそうだ。そこでその時ジムチャレンジに挑戦していた母と出会い、なんやかんやで燃えるような恋に落ち結婚。そして私が生まれた、という経緯なのだとか。それはいいけどお母さん、その話もう10回目だよ。ワイルドエリアで助けてくれたお父さんがかっこいいのはわかったから!
閑話休題。ともかく、他の地方の出身だった父の手持ちのポケモンはこのガラルには生息していない種類のポケモンだ。特に、彼の相棒であるグラエナはガラル地方には一切の生息反応を見せない。要するに、ガラルではとても珍しいのだ。だからお父さんがグラエナを出して戦うたび歓声が上がり、スクールのみんなからも羨ましがられたものである。
そんな父のグラエナの連合いがある日卵を産み、その卵から孵ったのがのちに私の手持ちに加わることになる、グラエナのけーちゃんだったのです。
「けーちゃ、ちがうよ。教えた芸は、こう!」
「わふ!」
「違うぅぅぅでも可愛い〜」
けーちゃんは、ポチエナだった頃から少しおバカな子だった。私もバカだバカだと言われてたけれど、芸を教えようとして目の前でやって見せても「いやそれなんか違う」って感じのことをやってみせる。で、褒めてくれよ!って顔をしてキラキラした目で見つめてくるのだ。くそぅ、違うよって言わなきゃいけないのに可愛くて言えない!
「けーちゃん、可愛いね!」
「ヴヴ⁉︎」
「えっそんな嫌がる・・・・・・?」
けーちゃんは、私が彼のことを可愛いねというと毛を逆立てて嫌がった。こんなに可愛いふわふわのまんまるでも、やっぱり男の子だからなのかよく睨まれる。ごめんねと謝ってもぷいと背を向けて行ってしまった時は流石にこたえた。だってちっちゃくていちいち動作が可愛いんだもん。
「けーちゃん!避けて噛み付く!」
「ガヴヴァッ」
でもバトルはすごく考えて攻撃を喰らわせているようだったから、感覚的な頭の良さはあるんだと思う。というかバトルが好きなのかな?ポチエナというには些か獰猛すぎる唸り声をあげて父のグラエナに噛み付いていく姿は勇猛果敢で、まるで絵本に出てくるヒーローみたいだった。
「けーちゃ、けーちゃ」
「うぉん」
血の気の多い部分もあったけど幼かった私をいつまでも献身的に見守ってくれて、名前を呼べば必ず尻尾を振りながら寄ってきてくれた。グラエナになったら尻尾を振りながら、なんてことはなくなってしまったけど、どんなに遠くにいてもなんだなんだというようにすぐさま走り寄ってきてくれた。
ちょっとおバカで可愛くて、でも面倒見が良くてとてもカッコいいけーちゃん。幼かった私は、きっと彼が私の最初のパートナーになるのだろうなと思っていた。そしてそれは、他ならぬけーちゃんも同じだったらしい。
「けーちゃん、私が旅に出る時はよろしくね」
「わん!」
そう声をかけると「おうともよ!」とでもいうように吠えた彼は、幼い自分から見ても頼もしくて。彼と旅に出たらきっと楽しいだろうなぁと思いを馳せていた。
私が10歳で旅立つ日、ハジメくんが私のボールに入るまでは。