うちの相棒と兄貴分はいつも、喧嘩ばかりしている。
「ヴー!ガウッ!グルル!」
「きゅう、きゅば。グゥ」
険しい顔をした私の兄貴分、グラエナのけーちゃんが尖り切った牙を剥き出しにしてがうがう吠えながら噛み付いていき、それを軽々と避けた相棒、ドロンチのハジメくんは追い払おうと大きな尻尾を振り回している。睨み合いながら唸り声をあげ、体当たりをしたり、噛み付いたり、時に追い詰めたかと思えば形勢が逆転したり。目まぐるしく変わる様相はまるで強いトレーナーとのポケモンバトルを思わせる。
「あっまたやってる・・・・・・」
目を離すとすぐコレだ。いつもは素知らぬ顔で並んでいるのだが、例えば私がカレー作りに夢中になっている間に彼らは喧嘩をする。煽り合うようにがうがうきゅばきゅば鳴きあったり、今のようにバトルをしたり。時には遊ぶ用のボールを勝手に持ち出して本気で打ち合ったりしている。それに気づかずカレーを作っている私は相当気が抜けているのかもしれないと自分でも思う。でも彼らは私がそちらを見るとぴたりと喧嘩をやめるのだ。まるで今まで何もしてませんでしたよとでもいうかのように。それに、喧嘩に夢中になっているようでお互いが怪我をしないギリギリを見極めているのかこの喧嘩で彼らに怪我が及ぶことはないとわかってからはストレス発散も兼ねて好きにさせている。もちろん、度が過ぎれば止めている。
けれど今日は、周りに気を配るほど余裕がないらしい。本気で睨みあいながらシャドーボールを撃ち合う寸前のところで声を上げる。
「こらー!けーちゃん!ハジメくん!」
私の声が聞こえたことで臨戦態勢はぴたりと止んだ。げっと言わんばかりの顔をした2匹が寄ってくる私の顔を見て同じタイミングで目を逸らす。2匹の顔はどことなく気まずそう。全く、そんな顔しても駄目なんだぞ。
「いつもの喧嘩はまだいいよ。お互い冷静な部分があるから。でも技を使って喧嘩するのは違うっていつも言ってるでしょ!」
「「グルルッ!/きゅう!」」
人間だったら、オレは悪くないこいつが悪いと言うんだろうな。お互いのせいにするかのように体当たりしている2匹に小さくため息をつきながら、ぴっと人差し指を立てて見せる。
「駄目なものは駄目!何が気に入らないのかわかんないけど、そんなに喧嘩ばかりするならお嫁さん探し本格的にスタートしちゃうから!」
「ガウッ⁉︎」「ぎゅううううううう」
ものすごく衝撃を受けたような顔をしたけーちゃんと何を言っているのかわからないと言うような顔をしたハジメくんにふんと鼻を鳴らす。言うこと聞かないならどれだけこの2匹が嫌がっても見つけちゃうもんね!という脅し文句だ。何故だかわからないけど、2匹にはこの脅し文句が面白いほど効く。ほら、今だって。顔色を伺うように擦り寄ってくるけーちゃんと目を逸らしながらも服の袖を引っ張ってくるハジメくん。いつも喧嘩ばかりなのにこう言う時だけ反応が似ている2人が面白くて、つい笑いが溢れた。
「ごめんなさいは?」
そう聞くと、渋々と言ったように鳴きあう。
これならしばらくは大丈夫だろう。相性が合わないと喧嘩してしまうことは仕方ないと思ってもう諦めているけど、技を使った喧嘩だけは駄目だ。お互いが怪我してしまう。
そう思うと、いつも怪我しない程度に喧嘩する2人は賢いんだなぁなんて。そんなことを思いながら微妙に距離を取っている2匹に笑いかけた。
「よし、この話終わりね。ご飯にしよう!」
カレーをもぐもぐ食べた後、手伝ってもらいながら後片付けをしていたら夜になっていた。今日はすごく星が綺麗だ。ご飯を食べてお腹いっぱいになったけーちゃんとハジメくんには、一足先にテントに入ってもらっている。私だって、たまには一人で星を見上げたい時もあるのだ。嘘、星を見上げたいと言うより、考えたかっただけなのだ。
(どうして、喧嘩ばかりするのかなぁ)
いや喧嘩というよりは、けーちゃんが一方的に突っかかっている気がしなくもないけど。最初はもう少し違ったのだ。諸事情によりうで保護することになったドラメシヤのハジメくんを、当時ポチエナだったけーちゃんは最初の方は気にかけていた。先輩として頑張ってるんだなぁと思って見ていたのだけど、ある日を境に変わってしまったのだ。
私が旅立つその日、初めてのポケモンを捕まえるモンスターボールを渡されて。あの時はもちろん、最初の相棒はけーちゃんにしようと思っていたから。輝く瞳でこちらを見つめ尻尾を思い切り振って近づいてくるけーちゃんにボールを近づけようとした時。
「きゅ」
「えっ」
「ガウッ⁉︎」
そこに割って入ってきたドラメシヤが、驚く私たちを尻目に勝手にモンスターボールに入り込んだのである。
(あの時は大変だった)
ハジメくんが入ったモンスターボールはカチッと音がして、ゲットされたことを示していた。慌ててボールから出したしたり顔のドラメシヤに怒りながら詰め寄るけーちゃんは何かしらのやりとりをした後追いかけっこを始めてしまって。びっくりして動きが止まっている私。大きく吠えたけーちゃんの声に慌ててやってきたお父さんは私の周りをぐるぐる回って追いかけっこをする2匹と固まる私を見て驚いた顔をしていたっけ。
ともかく当初の予定とは違ったとは言え捕まえたことになった手前逃がすわけにもいかず、私の初めてのポケモンはドラメシヤ、ハジメくんとなった。それで旅に出ようとしたのだけど、そうは問屋が、ここではけーちゃんが卸さなかった。
ハジメくんと家を出ようとする私にがうがう吠えながら服の袖を噛んで引っ張ったり、靴を隠したり。とにかく行かせない!とでも言うように悪戯をするけーちゃん。根負けした私が「けーちゃんも一緒にいこっか」とボールを出すまで彼は折れなかった。
なんとなく、初心者が2体持ちっていいのかなぁと不安ではあったのだけど。やっぱり生まれてからいつも一緒だった彼がいてくれると言うのはとても安心したのを覚えている。
(まあ、いつも喧嘩されるのは困るんだけど)
旅に出てからかなり時間が経つけど、けーちゃんとハジメくんの仲はそんなに良くない。それどころかどんどん喧嘩が激しくなっている気がする。少し前までは突っかかるけーちゃんをいなして素知らぬふりのハジメくん、という構図だったはず。なのにけーちゃんがグラエナに、ハジメくんがドロンチに進化してからハジメくんも応戦するようになって。なんでなんだろうなぁ。バトルの時やたまに見せる連携なんかはとてもスムーズで、いつも喧嘩してばかりの様子が嘘のようなのだけど。二人とも意外と好戦的だから、そう言うところでは合うのかな。好敵手みたいな感じなのかな?でも、あれは本気で喧嘩してるしなぁ。
ポケモンじゃない自分には喧嘩している理由がわからない。いざと言う時は協力できる姿を知っているので本気で嫌いあっているわけではないのだと思うのだけど、理由がわからないとやっぱり不安にはなる。そこは仕方ないと思って欲しい。
つらつら考えていると時間が経ってしまったみたいだ。夜も深くなってくるとそろそろ肌寒くなってきてぶるりと震える。そろそろ戻ろうと足を進め、テントに入り込むと丸まって眠るけーちゃんとハジメくんがいた。ご丁寧に真ん中は開けてあって、個人で寝ている。ここでも君ら一緒に寝ないんだなと思ったが、私の寝る場所を取っておいてくれたのだろう。いじらしいところにクスッとしつつリュックから毛布を取り出して私も横になった。
(時間が解決してくれるか、彼らの事情が解決するか)
それを待つしかないのだろうな、と。
そう思いながら眠りについた。
考えなしとか言ってはいけない。うん。