シアンの絵の具を塗りたくったような青空が、目を閉じればいつもそこに浮かぶ。
蝉の鳴き声が、いつまでも頭の中で鳴り止まない。
お前があのフェンスの向こう側に羽ばたいたその瞬間が、頭の中を飽和している。
そんな錯覚は、7年前から続いている。
美しくて吸い込まれそうな文句なしの晴天を、あいつが好きだった青空を見るたびに、あの夏の日を思い出す。
《1998年××高校にて》
「ごめん、慶一郎」
そうやって割れる寸前の薄氷のように笑う親友に、なんと言って返せば正解だったのだろうか。あいつがいなくなった今も、過去が擦り切れてなくなっていきそうな泥沼に浸かる今でも、その答えを見つけられずにいる。
「ありがとう。慕ってくれたあの子が、そして手を離さないでくれた君がいたから生きてこれた」
「僕の人生はこれで終わりだけど、でもそれでいいんだ。それがいい。僕は生きていてはいけないんだから、これが最善策なんだよ。だから君は気に病むことはない」
「一つだけ。あの子に。君を置いていくことを、許さなくていいから、どうか真っすぐに生きて。君の思うように自由に、帯のように短くキャラメルのように濃い人生を駆け抜けるように生きて欲しいと、そう伝えてくれないか」
「そしてさ、君は。慶一郎、僕の親友、愛しい君。どれだけ回り道をしても不思議と君にたどり着くんだ。文学よりも鮮烈で、宝石よりも輝かしい、運命なんて笑っちゃうくらい、君が大切だ。でも同じようには生きていけないから。だから、そんな君に、お願いがある」
「君は、幸せになって」
そう微笑んで、青空の向こうに消えていった親友がいた。
この世界で踏み潰され人に絶望し自分を憎んだあいつは、愛した青空へと羽ばたいてみせた。どんなにひしゃげて原型をとどめていない姿になろうと、映画のように美しい最期だった。たとえ人に顔を歪められるような死体になっていても、いっそ幸せそうに見える死に顔は俺にとって何よりも美しく見えた。
あぁ、お前。ようやく終われたんだな。
苦しくないか、辛くないか。そうだよな、こんなクソみたいな世界で生きるには、お前は優しすぎた。きっと、お前が一番笑える場所へ、あの空の近くへ行けるなら、それが一番、いいことなんだろう。
わかっていた。このまま生きていても、お前は幸せになれないって。お前が誰よりも溺愛していた掌中の珠の弟と笑っている時でも、そしてお前が親友だと嘯いた俺といる時でもどこか寂しげで、苦しそうに息をするお前が、優しさを搾取し踏み台にする世界で笑えるなら、あんな苦労なんてしなかったんだろう。
ほんとに生きるのが下手だな、お前。そんなんだから、自殺なんてするんだ。青空の向こう側に行こうなんて、トチ狂ったことを思うんだ。
そんなふうに罵って、お前の選択を穢すことは出来なかった。お前の親友だからこそ、俺はそんなことする資格はない。「君は死ななくていいよ」と言われて立ち止まってしまった俺が、外野に弾き飛ばされてなお走り寄らなかった俺なんかが、そんなこと許されない。それ以上に、お前が幸せに終われたなら俺はなんだって構わない。
それでも。
もう、お前のおはようは聞けないんだな。
独特なイントネーションで名前を呼ぶ声で起きることもないんだな。
くしゃりと微笑むお前の顔も、見れないんだな。
最期まで、俺がいるから生きていくよとは、言ってくれないんだな。
ほんと、ひどいやつだよ、お前。
それでも、俺の、遠く輝く一等星だった。
決して手の届くことのないものになった、俺の愛した親友だったのだ。
愛してたんだよ、ペルラ。
「お前がいない世界で、幸せになんてなれるものか」
到底お前とはわからないほどぐちゃぐちゃになった暖かくない体を掻き抱いて、引き離されるまで泣き続けた。
誰よりも愛し抜いた親友がいた。
この胸を射倒すくらい、心を傾けたあいつの名前の意味の通り、真珠のような親友がいた。
その親友の手を離してしまった日を、
取り返しがつかなくなってしまった日を、
人に対してはちきれるような憎悪を抱いた日を、
俺は生涯、忘れることはできないだろう。