「傾国の美女の嫁入り」
傾国の番外編、白豹若狭√で同年代ifです。
本編軸番外編より先にオメガバース パロ軸ができてしまったので供養。めちゃくちゃBLDです。そして彗華が今牛若狭と同年代になってます。とても特殊です。真面目に特殊もの。本編二作品を先に読んでもらってからの方がわかりやすいかと。
無理だと思ったらそっとページバックお願いします
白豹若狭を捏造してます。
***
「ねぇ、あなたのお嫁さんにして」
そう言った時、彼はどんな顔をしていただろうか。
星も出ていない田舎の夜のような闇が、彗華の視界を覆い尽くしていた。空すら見えないほど深い谷に放り込まれてそのまま出られなくなったような閉塞感。自由の効かない濁流の中にいる気分で身動きも取れない。あぁ、また追い出されたのか。諦観じみた息苦しさが胸に沸き上がる。こんなふうに、父親に夜外に出されるのはよくあることだった。いつ爆発するのかわからない父の機嫌は時折急降下し、彗華の言動一つ一つが気に食わなくて癇癪を起こし、暴力を振るう。そして頭を冷やせと怪我もそのままに放り出されるのだ。まあ、今回は仕方ないことかもしれない。乾いたような笑みが浮かぶ。
今日、彗華は顔を焼こうとしたのだ。アイロンのコテを使って暖めて。見つかった父親に取り上げられて烈火の如く怒られた。母は、彗華にとても似ていると言う。いや、彗華が母に似ていくのか。だから父は自分のことを妻扱いしようとしているのだと思った。もしも、それと同じ顔じゃなくなれば。目を覚ましてくれるかな。なんて。それを途切れ途切れに告げれば苦しそうな顔をした父に殴られて、殴られて、殴られて。
そしてそのまま、怪我も手当てされず靴も履かされず寒空の下放り出された。「しばらく頭を冷やせ」と吐き捨てられて、ゆっくり扉を閉められて。それからどんなに扉を叩いても応答はなかった。
闇の帳が灯りすら支配するような遠い黒の空、肌を刺すような寒気。ひんやりとした地面が傷だらけの体を痛めつける。全身を刺される錯覚をする痛みはまるで呪縛のようだった。「どうして言うことを聞かないんだ」「お前の取り柄はあいつと同じ顔だけだろう!」と言った父の睨むような冷たい目がぎゅうううと心臓を掴んで離さない。このまま死んでしまえたらいっそ楽になれるのに。そんな思いさえぼんやりと浮かぶほどだった。
本当はあの時、あの事故の日死んで仕舞えばいいのは彗華だった。きっと帰ってくるのを望まれていたのは母だった。それなのに生き残ってしまった。父の元に戻ってきてしまった。押し殺した悲鳴が薄桃色の唇からこぼれ落ちる。
こう言うふうに言われるのは慣れているはずなのにちっとも心の歪には慣れなくて、真っ暗闇の中でしゃがみ込み体を小さくして縮こまった。薄氷がパキパキ折れるような心細さがあるのはきっと、この暗闇が寒くて痛いからなのだ。割れるような寒さと痛みは、彗華にいつも忘れようと努めている感情を引き戻す。
そして思い出してしまうのだ。
ーーやーい!女男!
ーー寄ってくんなよオカマが移るだろ!
ーーあいつなんか友達じゃねぇ!
自分たちが正義だと疑わない無邪気で悪辣な子供たち。友達だと思っていた彼の抉るような一言。
ーー子供の癖に男を誘う顔をして、穢らわしい!
ーーきっと気を引きたくて誘惑したのよ
ーーあぁ、男なのに。いやらしくって嫌になっちゃう!
たとえどんな美女でも泣いて逃げ出すような傾国の美貌を持った彗華を何をしてでも貶めたい近所の女性たちのねっとりとした噂話。
ーーかわいいね、巫くん。お人形みたいで、本当に・・・・・・。はぁ、我慢できなくなる!
ーーおじさんが守ってあげるよ、だから僕とおいで。
ーー黙って言う通りにしろ!顔と体しか取り柄がないんだから!
彗華の顔を見て勝手に狂って勝手に欲を抱いた男たちの下卑た笑みと欲を孕んだ動きをする手。
ーーお前、酌をしろ。
ーー飯の質が下がったな。もっと励めよ。
ーーどうしてこんなこともできないんだ!お前の意思など関係ない!お前はあいつの役割をこなしていれば良いんだ!
母を亡くして狂ってしまった父親の、理不尽な怒鳴り声と暴力。
その全てが脳を焼くようにぐるぐるぐるぐる頭を回り、徐々に思考が死んでいく。莫大な自分を責める言葉たちに息もできなくなり、彗華はその透き通る白の両手をきゅうと胸に押し付けた。
酒に酔った父親に疫病神、と罵られたことがある。翌日には覚えていないようだったが幼い彗華の心には深く深く突き刺さり、未だに癒えることはない。疫病神。確かにそうだ。私を庇って母は死んだ。そのせいで父はおかしくなってしまった。私の顔を見たせいで周りは狂う。狂ってしまった人の家族は、私を糾弾する。きっとどれも身勝手で、それでいてどれも正しい。だって私がこんな顔でなければ。私はきっと、もっと息がしやすかったはずなのに。その思いは彗華の心に燻って離れなかった。
人には過ぎたる美があるからといって、幸福を手に入れられるとは限らない。美人の妻を得ても満足できず、それより格段に劣る女性に溺れて愛することだってあると言う。それは逆も然りだ。そもそもどうせいつかはなくなってしまうものを褒められても、困るだけなのだ。ピンク色をした好意が襲ってくる瞬間は怖い。どんなにチヤホヤされようが好意を向けられようがそれは彗華が欲しかったものではない。こんな薄汚い量産型のものいらないと幼い子供が泣いている。誰からも愛されなくてもいい。幸せなど些細なもので構わない。育てた花が咲いたとか近所の猫が子供を産んだとか、それだけできっと生きていける。けれどその些細な幸せすら奪うと言うのなら彼らの言う愛なんてただの凶器と一緒だ。
彗華自身でも持て余すほどの傾国の美貌は、決して彗華に幸福をもたらしてくれることはない。寧ろ、お前に幸せなど似合わぬというように、不幸だけを呼んでくる。しかも、と自分への嘲笑を浮かべた。他人曰く「人を狂わせて欲を誘う容貌」に加えて、さらに彗華には【第二性別】の問題がある。それは彗華が学校に向かうことをやめた一つの理由でもあった。
この世界には、男女の他に第二性別という三つの性別が存在する。
一般的な能力が高く優遇され男女共に妊娠させる力を持つアルファ、この世で最も人口が多く普通の人ベータ、そして一般的には能力値が低く差別され男女共に妊娠できる体を持つオメガ。
彗華は、オメガだった。
それも、極上の。アルファであれば手を伸ばさずにはいられないほどの甘く芳しいフェロモンと、しとしと降る雨のような纏わり付いてくる色香を持つのにシルクよりも繊細で清楚な美貌。濡羽色の艶やかな黒髪に、煌びやかな真紅とグレーのオッドアイ。抜けるように白い肌。庇護欲と征服欲を同時に掻き立てられる華奢な体躯。悲劇的で叙情的、華やかなのに静謐でしっとりとした美しさのアジアンビューティー。
ベータの両親からオメガの子供が生まれると言うのはなんとも奇跡的な話だ。そして、母譲りの美貌とオメガ性というのは彗華の心を強く蝕んだ。
「誘ってくるいい匂いをさせてそんな色気づいた顔立ちなのが悪い」
どれだけ彗華が被害者であっても、世間は社会に弾かれるような弱者には優しくない。「あなたがオメガだから」「そんな顔をしているから」「あなたから誘ったんでしょう」教師に襲われかけた時、そんな言葉をかけてきた女性教員の顔を今でも覚えている。日本という国の犯罪は被害者が悪いことにされ加害者には優しいのだ。タチの悪いアルファやベータに捕まって孕み袋にされていないのは奇跡に近い。
どうして私はこんなふうに生まれてきてしまったんだろう。別に両親が悪いわけではない。子供が親を選べないように、親も子供を選べないのだから。そういう意味では父は圧倒的被害者であるのだと思う。彗華に好意を抱く人々も。彗華を疎む人々も。多分人として私は失敗作で、どうしようもない。この世に生まれた人々、全てが失敗作だったなら。そう思うことがないわけではない。不毛な考えだ。無駄な考えだ。それでも、思わずにはいられなかった。
ふと、彼のことを思い出す。脱色した白の髪に紫の瞳をした、美しい獣のような男の子のこと。
一目惚れだった。男が男に一目惚れするなんておかしい話だけれど、本当だった。
『随分、お転婆なお姫様だな?まさか空から降ってくるとは』
同い年なのに、低くて優しい声の大人びた人。怖い見た目なのに、全身が震えるようにあの人のことしか見えなかった。恋愛小説のようなキラキラしたものではない。稲妻が落ちて感電するような衝撃と、泣いてしまいたくなるような歓喜、そしてパズルのピースがカチリとハマったような感覚。落ちてきた私を難なく受け止めてくれた男の子。何も言わずにただ話を聞いてくれた男の子。私の顔に誑かされなかった男の子。
きっと、彼は覚えていないだろう。アルファに襲われそうになって、命からがら逃げて。もう全て嫌になって世を儚んで飛び降り自殺しようとしていた男のオメガのことなんて。彼に一目惚れして、この人のものになれたらどんなに幸せだろうと思った子供がいたことなんて。拙く脆い告白に返してくれた言葉なんて。もはやあの男の子は忘れ去ってしまっただろう約束を、それでも彗華は後生大事に抱えて生きてきた。
『いいぜ。だけどウチに来るには、オレもオマエもまだ幼すぎるな』
『大きくなったら迎えに行ってやる。それでもオレのことが好きだったら』
『そしたら、ーーー』
そう言って頭を撫でてくれた人がいたことを、彗華は今でも覚えている。
どうしてこんなにあの野生の獣のように美しい男の子のことが忘れられないのか、彗華はよくわかっていなかった。わからなかったけれど、ずっと探していた。ずっと会いたかった気がしていた。この世に生み落とされる遥か昔から、伝えたいことがあった気がしていた。そんな根拠のない感情だけで、彗華は彼のことが好きだった。周りはなんだそれはと笑うだろう。はしたないと眉を顰めるだろう。それでも、これは恋だ。私の、私だけの恋だ。けれど、もうそんな夢を見るのも潮時かもしれない。
体から血の気が引いていく。脳みそが融解して、思考が死んでいく。怪我をしているけれどろくに手当もしていない体に冷気の刃が突き刺さるようで痛かった。痛い、痛い、痛い。まるで闇に呑み込まれてしまいそう。このまま死ぬのかな。それもいいかもな。しゃがみ込むことすら出来なくてぺたりと座り込んだ。張り詰めた空気が維持できない。体の熱さとじくじくとした痛みでどうにかなってしまいそうだった。息が、できない。息をさせてと小さな彗華が泣いている。みっともないくらいに泣いている。
「たす、けて」
誰に聴こえるはずもないナイチンゲールの囁きは、静寂を切り裂くように空へ消えた。
はずだった。
「浮かない顔だな、花嫁」
は、と白い吐息が漏れた。そんなわけないのに、一番聞きたいと思っていた人の声がした。夜闇よりも濃い漆黒の髪を揺らして、彗華は振り向く。痛みも熱さも、気にならなかった。その双眼を見開いて、声のした方を向く。そんな、まさか。
いるはずがない。幻聴だ。希望を抱かないように必死に否定するけれど、期待することをやめられない。唾液が溜まる。脳味噌が緩やかに死んでいく恍惚を、なんと言えばいいのだろう。
「嫁入り前の女が、そんな体でいていいのかよ」
野生の獣だ、と思った。ギラギラとした雄の顔。欲望を一身に受けるような顔をしているのにそれがどうしてか嫌ではなかった。私は女じゃないよとか、どうしてここがとか、言いたいことは山ほどあったはずなのにそんなことすらままならない。すでにボロボロの体を引きずって縋り付くと、しゃがみ込んだあの人に痛いくらいに抱きしめられた。赤い石の連なるピアスが耳をくすぐる。脱色した白の髪、アメジストより熱を帯びた紫の瞳。がっしりとした肉付きのいい体躯に、黒い刺繍がされている白の特攻服がずっと大人びて見えた。昔も身長差はあったけれどそれ以上に大きくなって、彗華を体だけで囲い込むことすら可能だった。
「なんで?」震える声でそう聞く。どうして、こんなところにいるの?ぽろぽろと真珠のような涙で柔肌を濡らす彗華に、男は笑う。穏やかなふうではあったけれど、淑やかというにはあまりに乱暴で、野生的で、危険な男の匂いとアルファの強いフェロモンの匂いがするそれにどうしてか力が抜けてしまう。いつもなら逃げ出しているはずなのに体の自由が効かない。訳もわからないまま弱々しく服を掴む彗華の顎を掴み、耳朶を直接震わすような声がした。
「オレがオマエの運命だからだよ」
うんめい?無自覚だろうがぽっかりと白痴のように目を開けて頬を紅潮させながら息もままならない彗華に男は噛み付くようにキスをした。優しくて穏やかで、なめらかな深いものだった。途端男のフェロモンが濃く深くなって、彗華の脳味噌を刺激する。どうしてか唾液が溜まるようだった。
いくらの時間唇を重ねていただろう。閉じた小さな上唇と下唇の間を開けろというようになぞられて、つつかれる。逃げ腰になって怯える彗華を掻き抱きながら、それでも男はこじ開けようとはしなかった。キツく結ばれた唇を一旦離して、瞳を細める。
「若狭」
「え?」
「オレの名前。若狭って、呼んで」
優しいけれど有無を言わせない言葉に戸惑って、けれど熱に浮かされたように「わかさくん」と呼んだ。腹の奥のそのまた奥がきゅうとうねる。淫靡な恍惚が全身にびりびり広がって、どうしようもない。もっと彼の名前を呼びたくて、そして彗華の名前も呼んで欲しくて切ない。あの低い声で呼ばれたらきっと、天にも昇る心地だろう。
「私は、彗華。私の名前も」
と控えめに口にした瞬間に口付けられ、男、若狭の舌が小さな口内を蹂躙する。彗華、と口付けられたまま呼ばれた気がして瞳が潤む。涙が出るほど嬉しくて、乞われるがまま舌を絡めた。唾液を分け合い、体温を移し、一つに溶け合うようなキス。こんなことを誰かとするのは初めてで、それなのに嫌じゃないのは運命だから?理性が融解していく。理性に酸素が足りない。こぽりと奥から何かが漏れ出た気がした。全身がじくじくして、切なくて、寂しい。でも、この人と、若狭くんとキスをしていると気持ちいい。甘くてとろとろとけてしまいそう。本能が、目の前の雄に満たしてもらえと囁いている。
うっとりと全身を蕩けさせている彗華の目を見つめながら、若狭はうっそり笑う。すげぇかわいい。そうつぶやいた気がした。その笑みはどうしようもなく艶があって、男性的な色香を漂わせている。嬲って、舐って、貪って。ぴちゃぴちゃと口内を荒らす不埒な若狭の舌が少しずつ離れていき、彗華の舌が無自覚なのかそれを追い縋って、銀の糸がつぅと伝った。ヒートですら、こんなに熱を帯びることはないのに、どうしてしまったんだろう。初めての快楽に呆然とする彗華に、若狭が微笑む。獲物が自分から逃げられなくなったことを喜ぶ肉食獣の笑みだった。背中を大きな手が上下して、それにもまた体を震わせる彗華は羞恥に顔を赤らめている。ごめんなさい、と小さな金糸雀の可憐な声に若狭は怪訝そうな顔をした。
「なんで謝るんだよ」
「だってこんな、いやらしくて。私、男なのに」
泣き出しそうな顔すら不安定な色気があるけれど、それ以上に少女のように可愛らしい。耳まで真っ赤に染めながらそれを隠すように両手で覆うのを無理やり外させる。白磁の肌は薄桃に染まり、困ったようにへにょりとした眉が迷った子供を思わせる。けれど息が上がって熱い吐息を漏らす桜の唇も、透明な膜のはった宝石よりも美しい瞳も、若狭が触れるたび可哀想なほど震えて擦り寄ってくる体も。全て若狭の欲を煽るだけであった。尖った犬歯を剥き出しにして哄笑する。先程明確な答えを言ったというのに自分の極上の雌は、まだ気が付いていないらしい。
「オレが彗華に興奮してるみたいに、彗華もオレに興奮してんの。だから、いやらしくていいんだよ。オレたちは二人で一つ。離れることなどない、比翼の鳥なんだから。運命ってのはそういうもんだろ」
だから全て曝け出せ。欲も願いも感情も、全部オレが受け止めてやる。そう嘯いて揺さぶる。あと少し、あと少しだ。この頼りなくて儚い運命が自分に願いを言うまで。最期まで、本当を見せなかったあの少年が飛び込んでくるまで。
神を人に引き摺り下ろすまで、あと少し。
喉がこくりと上下する。縋りつくように伸ばされたたおやかな両手が震えていた。淡い唇が開いて閉じてを繰り返す。
彗華はわからなかった。運命だからといってこんなに愛しく思うものかと。こんなに慕わしくて奪って欲しくて全て蹂躙してほしいと思うのは、きっと彼のオメガだからなのだろう。けれどこの、会えたことへの喜びと泣きたくなるくらいの慕わしさは、誰かのもので、そして自分のものな気がした。きっとこの人は、私を傷つけない。きっとこの人は、若狭くんは、願いを吐いても、怒らない気がした。ずっと気がついていたはずなのに、どうして『あの時の私』は言えなかったんだろう。いや、理由はわかっている。わかっているけれど、もういいんじゃないかと思った。
ついぞあの時は言えなかった、希望を言っても。
「若狭くんのお嫁さんにして」
ぽろりともろびでた言葉。
うなじを噛んで。つがいになって。そして、ずっとそばにいて。置いていかないで。たすけて。私を、あなたの特別にして。愛してほしい。
こんなの恥ずかしくて聞きたくないのに、これを言わなければいけないように思う。ずっと言いたくて、ずっと言えなかった。そんな幾星霜からつながる思いを、言葉にして伝える。涙が溢れて止まらなかった。
「仰せのままに、オレの花嫁」
まるで神に誓うように、首筋の頂を噛まれた。
そのことが涙が出るほど嬉しくてたまらなくて、泣き出した彗華に若狭は、また口付けを送った。
夢を見ていた。懐かしい夢だった。番を迎えに行った時の夢。
ふと、若狭が目を覚ますと黒髪の絶世の美人が隣で眠っていた。白く小さな裸体が自分の胸に擦り寄る様がまるで子猫のようだなと愛らしさに目を細める。神が作ったと言われても遜色ない美しい顔立ちが、ゆるく微笑むのが可愛らしくてたまらなかった。同じ男の体なのに、オメガだからなのかこの少年だからなのか、性別的な垣根を感じさせない体つきと、ほんのり香る花の匂いのフェロモン。なかば恍惚とした気持ちで青白い頬を愛しむとんん、と眉を顰めて身動きし、また体をくっつけようと擦り寄ってくる。それがまた欲を誘うけれど、これ以上は彗華の体に負担がかかってしまうとぐっと欲を飲み込んだ。どうにもこの体は若いからか我慢が効かなくていけない。まあ、それで先程可愛らしいものが見れたので満足してはいる。オレも大概現金だなと苦笑した。
子供だった頃。初めて出会った時。それより前から若狭は彗華を知っていたと言ったら、この傾国の美人はどんな顔をするだろうか。運命のつがいにあなたのお嫁さんになりたいと言われて、どうしようもなく歓喜するアルファの自分と共に見つけた、もう離さないと嗤った自分がいたことに、彼は気づいていただろうか。気づかなかったろうな、なにせ、覚えていないようだったから。
彼はついぞ忘れ果ててしまって、自分だけが大切に覚えていることがある。
もう一度であったなら、必ず捕まえて、骨まで中に迎え入れると、誓ったことがある。
世界で一番、コイツに伝えたかったことがある。
「愛してるよ、オレの花嫁」
前世では伝えられずに黙っていたことを、こちらでは何度も何度も伝えられる。恥ずかしがりながらも私も好きと伝えてくれる彗華がいて。これを幸せというのだと思った。
『そしたら、一緒になるぞ。一生、ついてくるんだ』
そう言った時のオマエの顔を、オレだけが知っている。
「おやすみ、彗華」
そっと額に口付けて目を閉じる。
ひとりきりの二人は、ようやく宿木を見つけられた。
白豹の花嫁
裏話
ちなみに本編軸で両片思いで結ばれなかった二人です。
男同士、自分と付き合うことで若狭に降りかかる障害を思った彗華はただの兄弟として生きることを決め、若狭もそれに従い、二人は老後まで寄り添っていきました。結婚はしていないけれど。
でも最期に、彗華は願ったんですね。
「ねぇ、若狭くん。お願い、してもいい?」
「あぁ、いくらでも聞いてやる。オレが叶えられることならなんだって」
「もし、もしも。死んだ後も人生が続いて、もう一度出会えたら」
「・・・・・・あぁ」
「私、言いたいことがあるんだ」
「うん」
「だからその時は、ちゃんときいてくれる?」
もちろんだ。そう答えた言葉は、オマエに聞こえていただろうか。
駆け足になってしまったー!しかも長すぎる!
ここまで呼んでくれた方、ありがとうございます!