永遠になるまでの逃避行






「どこまでも行こう、永遠になれるまで」

Twitterで長内信高の夢を書くのが流行っていたので、書いてみよっかなと思って書きました。内容はTwitterのベッターにあげたものと同じです。
わかりやすいんですがイメソンはあります。すぐわかると思う。
唐突に始まり唐突に終わる。本当はもう少し続く予定だったのだけど、とりあえずここまで。

***

こんなクソみたいな世界を舐め腐ってたオレのような人間でも、いつか。ハッピーエンドが待っている。きっとフィクションのように全て上手く収まる。そしたら、明るい方へお前と歩いていける。そうでなくても、望む未来を得られると。
そんな夢物語を、バカみてぇに信じていた。

幼馴染は不思議な女だった。槍玉に挙げられやすい不良のオレとは正反対の優等生。どうして薄暗い汚れた道をいくオレと今でも交流があるのかわからないくらい、出来た女だった。だが喧嘩ばかりで腕っ節を盲信していたオレに周りは近寄ってこないのに、あいつだけは離れていかない。かといって、何か小言を言ってくるわけではなくて。間を一人分開けて隣に座るだけ。その距離感が心地よくて、どうしようもなく好きだった。
「長内、また喧嘩したのかい?」
「・・・・・・うるせぇな、関係ねぇだろ」
「そういうならここにくるなよな。僕だって暇じゃないんだぞ」
呆れたような顔で言いながらも、けしてオレを邪険にはしない。仕方ないものを見る目で見てくるのが居心地が悪くて目を逸らす。普段あまり変わらない表情が緩んだ気がした。
「ほら、そこに座りなよ。手当てしてやるから」
救急箱とってくると言って背を向ける女をぼうっと眺める。普段のオレを知る奴らなら一人称が僕の女など男女と罵って嘲っていると思うのだろうけれど、実際はこんなだ。こいつの一人称なんてなんでもよかった。事実、女が纏う中性的な雰囲気と厳かな表情にその一人称は似合っていて、違和感は一切なかったのだから。だが決してそれだけではなくて。
ただ、自分の思うままに生きるこいつのことを、眩しいと思っていた。光に惹かれる蛾のように、目が離せなかった。
そんな感情を抱く相手を、蔑めるなんてことはしたくないと、強く思ったから。
「長内?どうかしたのか?」
「んや、なんでもね」
「ふぅん、変な長内」
まあいいやと微笑うこいつに抱く感情に、名前をつけることを頭が拒否している。本当はとっくの昔からわかっているはずなのに、動くことが怖い。朝露のようにフッと消えてしまいそうな女を、自分のものにしたいなんてそんな恐ろしいこと、いえやしない。そもそもそんな資格もない。
だから、祈るのだ。
誰にも邪魔されず、このまま二人でカーテンコールまで行けるように。
誰かに後ろ指をさされても。釣り合わないと言われても。そんな資格ないと嗤われても。
このまま二人きり、消えてしまえたら。

オレはオレのことを最強だと思っていた。だから、何をやっても許される。そんなとんでもない驕りを抱いて、できないことはない、許されないものはないとなんでもやって見せた。人が顔を歪めるような犯罪を犯して、それでも声を上げて笑っていた。それが最近入ってきた参謀の手のひらの上だと気づきもしないで。
オレは馬鹿みたいに有頂天だった。
どうしてあの時、周りを顧みることをしなかったのだろう。
誰よりも大事な宝石が曇らされていることに、どうして早く目を向けなかったんだろう。

刺された。

捕まった。

参謀に嘲笑われて捨てられた。

惨めで馬鹿で愚かで、救いようもない。そんな自分が情けなくて、泣きたくなった。どうしようもなくあいつに会いたかったけれど、こんなオレが会いにいく資格などないと思った。二人で何を喋るでもなくそばにいたあの時間に戻れるものなら戻りたかった。そんなことを赦されることをしていないのは分かっていて。会いたいけれど、会いたくない。もうオレのことを忘れていてくれないかと、未練タラタラなくせにそんな身勝手なことを思った。
けれど、神様ってのは意地悪だ。
入院して身も心もボロボロで、何もなくなったオレの元に、あいつがやってきた。なんの感情も見えない瞳でこちらを一瞥して、ひどい顔だねと零したあいつは旅行に出るかのようなリュック一つで。病室に入ってから目も見れないでいたオレは、感情を爆発させた。
何しにきたんだと怒鳴った。
笑いにきたのかと罵った。
来ないでくれよと泣いた。
これ以上オレを惨めにしないでくれと、自分勝手な言い分であいつを困らせて。
でも、幼馴染は何も言わなかった。
ただ、「うん」と頷いただけだった。
それがどうしようもなくこいつらしくて泣きたくなって、一度も見れなかった顔を見て。息が止まった。
オレが増長する間に会いに行かなくなった女の顔は、驚くほど窶れていた。いつだってオレの幼馴染は飄々としていて、どんな時でも変わらなかった。だからそんな顔を、一度も見たことがなかった。
「僕さ。昨日、人を殺したんだよね」
だから僕も君とおんなじ、社会不適合者だよ。そう言った女は、恐ろしいほど穏やかな顔をしていた。オレが好きだった穏やかさとは、全く別物の笑みだった。
言葉を失うオレに、あいつはいいあぐねるように目を伏せてから語り出した。

いじめを受けていたこと。
助けを求めたけど誰からも無視されたこと。
嫌になってそいつを突き飛ばしたら、打ちどころが悪くて死んだこと。

「その時逃げちゃったんだよね、僕。多分、ここにいたら捕まるんだ。まあそれでもしょうがないことをしたから、大人しく捕まろうかと思ったんだけど」

「でも気がついちゃったんだ。捕まっても僕の人生は終わらない。またあいつらに会わなきゃいけない。それに、なんか疲れちゃって。なら、もう生きることを諦めようかと思って」

「だからちょっと遠くまで行って死んでくるよ。今日はお別れをしにきたんだ」

そう言って微笑う女は、とんでもないことを告白していると言うのに皮肉なほど綺麗だった。信じられなかった。どうして、言ってくれなかったんだと口に出そうとして、気づく。最近はこいつに会いにいくのをやめていて、こいつを見ていなくて。その事実に愕然とした。
じゃあもう行かなきゃ。バイバイと踵を返す幼馴染。行くな、止まれ。行かないでくれ。振り返ってくれ。そんな他力本願なことを思ってしまうからオレはダメなんだろう。手を伸ばしかけて、やめる。オレの言葉はきっと、届かない。彼女がドアに手をかける。これで、全て終わってしまうのだ。不意にそんな感情が浮かんだ。
それが、どうしようもなく嫌で、嫌で、

「待てよ」

気がつけば声をかけていた。

「オレも連れてけ」




「ねぇ、いいのかい」

「何がだよ」

「このままじゃ、君も人殺しの仲間入りだよ。今ならまだ間に合う。僕のことなんていいから、戻るなら」

「馬鹿にすんな」

「っ」

「どうせ、オレだってどうしようもない人間なんだ。後悔なんてねぇよ」

「・・・・・・馬鹿だね、長内。ほんとに」

「あ?うるせぇ、・・・・・・いくぞ」

「うん。ねぇ、長内」

「なんだよ」

「ありがとうね」

「はっ、うるせぇ」


いつか必ずハッピーエンドになる。
そんなことを、馬鹿みたいに信じていた。結局そんなことにはならなかったけれど。オレたちの物語は、きっとバッドエンドで終わるけれど。
それでも、この選択に後悔はない。

きっとこいつじゃなくてもよかった。そしてこいつも、オレじゃなくてもよかった。それでもオレたちは出会った。手を握っていてくれたのはお前だった。全て捨ててお前を選んだのはオレだった。だから、最期まで共にいると誓った。
恋ではない。愛でもない。同情でも哀れみでもない。
お互いがいないことが耐えられないから、永遠になれる場所を探しにいく。
だからこれは、それだけの話なのだ。