長内信高にはこの世で絶対に、絶対に敵に回したくない姉がいる。
その日は何の変哲もない日になるはずだった。
中学時代は反抗期により不良に道を外れたものの土木工事の奥深さに目覚め、建築の勉強がしたいと姉に頼み込み、紆余曲折ありながらもそれなりに名のある工業高校に進学した信高は、高校卒業してから何の仕事してるんだかさっぱりわからない姉の麗央に都心に連れ出され、クレープを食べていた。なんでクレープなんだと思わなくもなかったが、麗央の突拍子もなさはいつものことである。むしろ気にしていたらキリがない。けれど強面で、あまり女性受けしない自分と妖精のような華麗さとコケティッシュな美しさがある麗央が並ぶと犯罪にならないか。しかも俺クレープすきじゃないんだけど。そう思いつつも麗央が珍しく自分のために金を使おうというのだから、何かあったのかもしれぬ。そう思って渋々、本当に渋々付き合った。けれど姉と並んで食ったクレープはうまかったし、バイクを吹かしての久々の二人きりの外出は楽しかった。揶揄われることが確定しているので本人には口が裂けても言いたくない。信高は誓った。
閑話休題、そんな外出の帰り道少し遠回りしようと誘ったのは信高本人であった。言わないが、麗央との外出は本当に久々だったので。まぁ、正確に言うならば少しだけ浮かれていたのだ。そんな信高の内心を悟ってかはわからないが麗央も快諾してくれた。内心、さらに浮かれたのは墓場までの秘密である。
だがしかし、信高はこの選択を暫く後悔することになる。
あたりを暗がりが支配し、星も瞬くような時間帯。バイクから降り二人で家に帰るまでの道を歩いていた。時間を忘れていたわけではないが、こんな時間になるまでバイクを走らせていたのは本当に久しぶりだった。
「遅くなっちゃった」
「今日は夕飯、オレが作るよ」
「お、そうかい?お前の飯、たまに食べたくなるから楽しみだ」
「・・・・・・そうかよ」
「そういうところで照れるところは変わってないのねー」
「うるせぇ」
そんな話をしながらぷらぷらと歩く。しかしこんな時間だからこそ麗央は映える。ちらりと目線をやると青紫の瞳が万華鏡のように色を変えて微笑んだ。その笑みがあまりに美しくて、つい見惚れる。
身内の贔屓目を除いても、麗央は本当に美しい。足跡のない雪原のような混ざりのない白の髪。それより甘さが勝る玉のような肌。切長で程よく吊り上がった眦には紫陽花より深みのある青紫の瞳が収まっている。肉感的な薄桃色の唇も、触れればふっと消えそうな儚くもしなやかな体躯も。全て明るい絢爛な美貌であるのに浮かべる表情があまりに優しいせいか、月光が弾けるような印象を受けた。夜に花びらの中からふと顔を見せた白薔薇の妖精、といってもいいような美しさである。けれどその微笑みはどこか引き摺り込むような得体の知れなさがあって、女が国を傾けるというのはあながち間違いではないのかもしれない、と思わせた。それほど、姉には人を惑わす蠱惑がある。
信高?こてりと首を傾げた麗央に慌てて首を振り、早く帰ろうと家路を急ぐ。もう夜も遅い。さっさと帰らねば、不良たちに絡まれる可能性がある。そう思いながら麗央と共にバイクを引いて歩いていた。ちょうどその時、悲鳴が聞こえた。
思わず顔を見合わせる。か細くて聞き取りづらいが女の子の声だ。耳をすませれば囃し立てるような男たちの声も聞こえる気がする。信高は顔を歪めた。あぁ、これは。顔を歪めて麗央の顔を見る。先帰ってろ、そう言おうとした口が止まった。
麗央の顔は無表情だった。怖いくらいの真顔である。極彩色で彩られた肖像画が夜に動き出すような錯覚を覚えるときのような、あの謎の痺れが走った。あ、これはやばい。終わった。そう悟った瞬間に麗央が駆け出す。
「セーさん、呼んどいて」
そう言葉を残して、麗央は悲鳴の聞こえる方へと飛び出していった。まるで稲妻のような速さだった。一瞬ため息を吐いて、悪いと思いながらも路地にバイクを停める。穏やかな1日の終わりに、なんて無粋なことをしてくれたのか。そんな思いが先立ちながらも、信高は彼女のいう人間へと電話をかけた。
夜は、まだ長い。
長内麗央という人間は、基本的には怒らない人間である。
それは聖女のように優しいからとか、懐が深いからとかそんな理由ではない。ただ単に怒ることが面倒で、そんなことに時間を使うくらいなら死んだほうがマシと考える人間だからである。というかそもそも、何を言われようと何をされようと怒らないのは長内麗央という人間にとっての価値の問題である。
簡単に言って仕舞えば、長内麗央は弟である長内信高以外の人間に感情を裂くことが無駄だと考えている。たとえば、蚊に刺された時蚊に怒るか?痒みに苛立ちはすれど怒らないだろう。埃が舞った時埃に怒るか?怒らないだろう。
麗央にとって人間はそれと一緒である。
長内麗央にとっての人間は長内信高ただ一人であり、それ以外は誰かが飼ってる愛玩動物。誰かの愛玩動物に何をされようが「まあ別に、会話が通じないからな」と放っておいている。自分を苛立たせることさえしなければ愛玩動物のやることだ、特に気に留める必要もない。そう考えているから、何をされても怒らない。まあ、要は興味がないのである。究極的な省エネ体質と人への興味のなさ。それが麗央を怒らない人間へと仕立て上げていた。
しかし、である。
少しでもその平穏を崩されるようなことがあるとするならば。
麗央はどんな手を使ってでも、その原因を取り除くだろう。
「あ、もしもし。信高?セーさん出た?」
「あーうん、うるさくてごめんね。今ちょっと掃除してて」
「ん?今ねー、あそこの角曲がった公園にいるから。ごめんうるさいね、いったん切るわ。終わったら連絡するよ」
ぴっ。携帯電話の切れる音がして、はぁとため息をついた麗央が眼前に震える「ソレら」を見下ろす。
「うるせぇな、ちょっとは黙れ。信高の声が聞こえねぇだろうが」
ドスが効いているわけではない、しかし明確に死の匂いがするその声はあまりにも冷たかった。ドガッ、ガツン、グキ。聞くに堪えないような人の骨がぶつかる音と悲鳴が響く。中には腰を抜かして小便を漏らす者、泣きながら許しを乞う者もいたがそんなことは関係ないとばかりに麗央は拳を振るう。向かってくる男たちの骨を折り、関節を外し、顔面を地面にぶつけてそのまま踏み潰す。血の海と化した公園の中、麗央の髪の白さだけが目立っていた。
「ねぇ」
綺麗なソプラノが纏わりつく。天使の調べのようなのに、それがどうしてか恐ろしかった。頭を鷲掴みにされ、放り投げられた男の上に両足で乗った麗央はいっそ可愛らしいと言われるような笑みを浮かべた。
「えーっと、状況から見るにさ。同意もなく女のに襲い掛かって、嫌がる体に傷をつける。そして泣きながら叫ぶ女の子の体をマワそうとしたんだよね?そしてそのまま放置しようとした、と」
「かわいそうにねぇ?お前らみたいなゴミのせいで生きてるのも嫌なくらいの目に遭わされて。お前らは少年院に入ってそれから出てこれるけど、あの子はレイプされたっていう事実を一生抱えて生きていかなきゃいけないんだもんね」
「人って怖いよ?どんなに状況から見て被害者でも、やられる隙を作るほうが悪いとか囀るんだから。きっと周りからいっぱい面白おかしく騒がれるんだろうねぇ」
まるでおとぎ話を語るように甘く穏やかに語り出す。それは男たちが今までやっていたことの証明であった。彼らは少女をレイプし、複数人でマワそうとしていた。泣き叫び暴れる少女を暴力で黙らせ、自分の思い通りに組み敷いて。いざ襲おうとした瞬間に麗央が現れ、この惨劇を作り出したというわけである。息も絶え絶えで答えられない主犯の男に麗央はにっこり微笑んで、思いっきり足を振り下げた。ぐぅとうめき声を上げながら血を吐き出した男に、麗央はいっそ優しく囁く。
「黙ってんじゃねぇよ。謝れって言ってんだ」
「あ、よーし。謝ったね。じゃ、今から全員全裸になれ。お前らの自慢のイチモツ、切り取ってやるよ」
「ん?こんだけのことやらかしといてまだ少年法に守られると思ってんの?まあ世間が許してもここにいる間は私が法律だからお前ら全員極刑ね」
「えー何その顔。文句ないでしょ?やっていいのはやられる覚悟があるやつだけだよ。猿でもわかることだ」
「馬鹿が喋るな。糞便と消しカス以下の存在にそんな資格があると思うなよ」
「あ、そうだ。これからお前らクズって名前ね!私の機嫌を損ねたんだから、それくらいのことは頷いてくれるよね?」
麗央はとっくに、息を呑む目撃者に気がついている。
それでも長内麗央は、振り向かない。
なぜなら、麗央の機嫌を損ねたこの男たちが悪いのだから。
天上天下唯我独尊
***
最後の方駆け足になったというか、落としどころがつけられなかったのでこうなりました。
長内麗央
白薔薇の妖精のような華麗さと纏わりつく夜のようなエキゾチックさを持つ美女。
中身はとんでもない怪物で激つよメンタルと喧嘩のセンスをもってるゴリラ。多分サイコパス入ってる。
自分と弟さえ良ければそれでいい。後の人間がどんなことを思おうがどんなことをしようがどうでもいい。好き勝手に人の話をするんだから、こっちだって自分の好き勝手にして何が悪いの?と本気で思っているヤベー奴。
人に興味がないので、平気で人の名前も間違えるし覚えない。人と会ってニコニコしてても「誰だっけこいつ」と思ってる。スーパードライを通り越して最早サイコパス。
ただ、自分の機嫌を損ねた時だけは別で、どんな手を使ってでも人の心をへし折る。男でも女でもそれは変わらない。「人間なんて皮剥げばみんな一緒の肉塊だよ。雄か雌か。違いはそれだけ」とわりと本気で思っているので容姿に関してはなんの未練もない。
自分が壊れていることは自覚済み。可愛いなぁと思っているのは弟だけ。でも何度もあってる人間に愛着が湧かないわけではないので、そこら辺の人間はとりあえず庇う。なんで庇うのかって?良くしてくれた動物に知らないところで死なれたら目覚め悪いでしょう?多分ペットに名前をつけない人間だし、どんなに人を惹きつけても興味がないので気がつかない。貢がれればもらう。決して返さないけど。
弟のことは大切に思っている。私は幸せってやつがわからないけど、お前が幸せだと思うところまでは見届けてやるよ。
そこまで書かなかったが、自称一般人
多分稀咲がこの事件の真犯人だとしれたら彼の人生が終わることは確定している。
横浜の王様にとても似ている。
長内信高
シスコン。姉より美しい人はこの世に居ないと思っている。それはそれとしてヤベェやつだとは思ってるけど。いやあんたみたいな一般人がいてたまるか!姉の人への興味のなさに胃を痛めている。けれど姉のやばいところも人として欠けているところも含めて愛しているので結構毒されているかもしれない。
多分原作より幼い。可愛げがあるし姉のことが大好きなのでどことなく犬っぽい。
一時期めちゃくちゃグレたけど、女にだけは手を出さなかった。性犯罪に巻き込まれがちな麗央を裏切るような気持ちになったので。それで紆余曲折経て、何故か土木建築に目覚めて不良から足を洗い、建築士を目指して工業高校に通っている。多分そこで出会った自分を好きだと熱烈に笑う女の子と純愛をして結婚する。
姉が自分のことを嫌いになるとは思ってないけど、オレが幸せになるまで見届けてくれよと祈っている。
書かなかったけど、何故か名前だけ愛美愛主の総長にされているのでこの後不良グループに巻き込まれる未来が確定している。
セーさん
出せなかったけど闇医者。麗央の信者。
いろんなところにパイプを持ってるので多分この人が麗央が暴れた時になんとかする係。結構理不尽を押しつけられているが本人は麗央の役に立てるなら!とニコニコしているので幸せかもしれない。
【次回予告?】
「マジなんだって!女が一人で愛美愛主の奴らを血の海にしたって!」
「へー、パーちんのダチとその彼女を助けた女、かぁ。あってみてぇな」
「愛美愛主の総長は長内信高!そいつが、あの事件の犯人なんです!」
「オレは不良はやめたって言ってんだろうが!!!」
長内信高の受難
「姉ちゃん、オレ・・・・・・好きな子できた」
「待て待て待て。ちょっと待て。私に相談することじゃないのは私でもわかるぞ」
長内姉弟の恋愛相談
「は?知らないよそんなの。お前が私の前に立ってるからいけないんだろ」
「あの女はな。サウスの女神だ」
「傷つけんじゃねぇぞ、何よりも丁重に扱え。あいつは極上の女なんだよ」
六波羅探題と長内麗央
「燃えるような恋をしたんです。あの夜惨劇を作り出したあの人に」
「とりあえずわかったのは、三途が惚れてる女はやばいってことだ」
三途春千夜の恋
「この女を探してくれないか?あいつが探してるんだ」
「は?姉ちゃんの、ほんとの家族?」
「ようやく見つけた・・・・・・俺の半身」
「ガタガタうるせぇ。あったこともねぇくせに家族なんてぬかすんじゃねぇよ気持ち悪い。紙切れ一枚での繋がりになんでそんなこだわるんだか。あと大体誰だよお前」
続かないよ!!!