海賊王に成り代わって生涯を終えたら少女になって転生したので息子を救いに行ったら前世の右腕に捕まった件について


例えば。
例えば、自分がポロッと願ったような望みが思わぬ形で叶ってしまったとして。それが、自分には手に負えないような代償を押し付けられる代わりであったとしたら。
まあそれでも、その代償を払ってでも生きていける人間とか、知るかと笑い飛ばしてやりたいようにやる人間とか、そういう奴は別にいいんだと思う。例えば昨今の流行りである異世界転生なんかは、なんだかんだ言って生きていけるポテンシャルを持っているから成り立つのだと、思う。
だがしかし、である。
「転生したら海賊王で、それが終わったら女の子になる、とかさァ」
それはねーだろそれは。引き攣った顔をした自分の目の前には大きな鏡。その中に映っているのは、美少女とまではいかなくても、春の訪れのような可愛らしい女の子にしか見えない。普段であればいいもんを見たといい気持ちで帰っていくだろうけど、今はそんな暇すらない。鏡の向こう、つまり自分自身のこぼれ落ちそうなほど大きな黒の瞳には、困惑だけが滲んでいる。
少女、そしてその中にある男の精神は、あの日に死んだはずだった。もうその頃にはおぼろげになっていた、シナリオ通りの結末を、それでも全うして見せたはずだ。
それなのに、どうして俺はここで生きているのか。
とりあえず、言えることがあるとすれば。
「なんで生きてんの、俺」
全く、身に過ぎた願いなんて、持つもんじゃない。

***

転生したという認識は持てない。
ただ、気がついたら、この偉大なる航路(グランドライン)の海の上にいた。大航海時代よりも前。つまりは物語の前日弾を、俺は生きることになった。
後の海賊王、ゴール・D・ロジャーとして。
このどうしようもなく自由のない、しかし何よりも自由で美しい世界に行ってみたいとは、確かに思っていた。
しかし、誰よりも謎が多く誰よりも偉大な男に成り代わりたいとは一言も言っていない。
もういっそばっくれて、海賊王なんて目指すのやめようかなと思った時期もあったのだが、気が付いたら海に出ていたし、副船長であるシルバーズ・レイリーとの出会いも果たしていて。あれよあれよと仲間を増やして、力をつけて、財宝を手に入れて、海軍と戦って。
ついに新世界に踏み出すときには「ああもう戻れないし引き下がれない」と覚悟を決めた。
そうして、俺はこの時代を生きた。漫画の知識、前世の知識を武器にしながら、仲間を増やし、世を手に入れた。子供ができた。多分、ロジャーとして恥じない生き方をできたはずだ。
たくさんの思い出がある。多分、本来のゴール・D・ロジャーも手にしていたろう思い出たち。大事な仲間たち。大切な女(ルージュ)。まだ見ぬ子供(エース)。きっと、本来のロジャーもこんなふうに囲まれていたんだろうな。
まあちょっと、ちょっとばかし、レイリーが過保護だなぁとか思いはしたけど。レイリーがそばにいると近くにいるのに誰も寄ってこないなぁのは不思議だったけど。無茶すると小言だけじゃ済まずに笑顔で殴られた後医務室に連れ込まれた時が一度や二度じゃなかったりしたけど。女引っ掛けてきたレイリーを揶揄ったら忌々しげに誰のせいだととか言われたりしたけど。キレるレイリーにシャンクスとバギーのガキどもと逃げ回るとかかなりやったけど。そういやルージュとの間に子供が、エースができたと知ったときにはレイリーは、なんでかしらんけど苦い顔してたっけな。・・・・・・いやレイリーばっかだな俺の思い出。
そして、最期の時までロジャーとして生き、その命を散らした。
もう記憶からも消えていきそうな物語通りに、あの場であの名言を叫び、役目を果たしたはずだった。


なのに、俺はまたこの世界の地を踏み締めている。
「ロゼー?」
「・・・・・・おう、ちょっと待てや」
「もう!またそんな男みたいな言葉遣いして!ロゼは女の子なんだからね!」
「ははは」
・・・・・・男ではなく、女として。