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つまりなんだ。
考えたくもない可能性だが、これからずっと私はポートガス・D・エースと一緒にいるはめになるのだろうか?
このマリンフォードを出ても?
お風呂に入ってる時も?
着替えるときも?
食事の時も?
トイレの時も?
好きな人とイチャイチャしているときも?
笑えない冗談だ。

何が起こっているのか分からないクザン大将が、視線を一点に集中させて動かない私を不思議そうに見つめ、私の見つめる先に同じように視線を送るが、やはりクザン大将にはポートガス・D・エースの姿は見えていないらしく、また私の方に視線を戻した。
「……あの、やっぱり私ポートガス・D・エースに憑かれてるみたいです……」
「え?だって今違うって言ったじゃない」
「……ええ。本人も違うって言ってたんですけどね。どうも、私から離れられないみたいで……」
クザン大将は途端に難しい表情になると、「ちょっと頭の整理をしてくる」と部屋を出ていってしまった。
もしかして、私、飽きれられた?
もしかしなくても、このまま別れるの?
最近は結婚だって意識し始めたのに。
このタイミングで私は捨てられてしまうのだろうか?
1度は止まったはずの涙がまた溢れてきて、視界があっという間に涙でぼやけた。
めんどく下がりのあの人の事だ。きっと、こんな幽霊に取り憑かれてしまった女なんてすぐに捨ててしまうに違いない。
"面倒なもん背負いこんじまって"とかなんとか言って、別れ話を切り出すクザン大将が容易に想像できる。
『おっおい!何また泣いてんだよ』
慌てた様子で私に話し掛けるポートガス・D・エースをじとりと睨むと、ポートガス・D・エースは少したじろいで一歩後ろに下がった。
『な……なんだよ』
「ポートガス・D・エース!君が私に憑いたせいで、私は……私はクザン大将に捨てられるかもしれないんですよ!どう、責任とってくれるんですか!」
『は?いや、責任って言われても、俺にはどうしようもないし』
「そもそも、君がとっとと成仏してくれればこんなことにはならなかったんです!
どうして、成仏してないんですか!」
あまりにもはっきり見えるため、ポートガス・D・エースが幽霊であるということもわすれ、涙を流しながら詰め寄れば、若干引き気味のポートガス・D・エースは、小さく『いや、本当に悪い』と呟いた。
「悪いと思ってるなら早く成仏してくださいよ……」
『それが分かれば苦労しねぇよ』
ぼそりとそう呟いた彼に少しいいすぎたかも知れない、と思いつつクザン大将を追いかけるためにベッドから出て、ブーツに足を通した。
『そもそも、どうやれば成仏できるんだ?』
「そんなの私が知るわけないですよ。
……何かないんですか?思い残した事とか、やり残した事とか」
『そんなもん、上げればきりがねぇ。ルフィの"夢の果て"を見れなくなっちまったのもそうだし、オヤジを海賊王にしてやれなかったこともだし、……あとはそうだな、みんなにありがとうと伝えられなかった事かな。
ルフィにみんなに伝えるように頼んだのに、あいつ伝えてくれてないみたいなんだよ』
「……なんですかそのいい話。か……海賊のくせに……幽霊のくせに」
ポートガス・D・エースの言葉にまた涙を溢れさせる私を呆れた様子で見下ろした彼は、ブーツの紐を穴に通すために屈んでいた私と同じ高さになるようにしゃがむと、その、触れることのできない手で私の頭を撫でた。
『お前、泣き虫なんだな。小さい頃のルフィみたいだ』
「……うるさいですよ。自分が泣き虫だって自覚は一応してるんです。……わかりました。私に任せて下さい」
そう言って私は立ち上がり、拳を握りしめた。
『……は?』
「その、ありがとうの気持ちだけでも"みんな"に伝えに行きましょう」
『……ん?』
「大丈夫です!私だって元海軍予定!海のならず者がなんですか!こちとら幽霊がとり憑いているんです!何も怖くない!」
『……』
「なので、早く成仏してくださいね!」
『ん……おう…』
こうなったら善は急げだ。辞表の用意をしなくては。でも、その前に辞表を出す相手、クザン大将を探し出さなくてはならない。
医務室の扉を開け、クザン大将が考え事をよくする場所に向かおうとすれば、執務室を出てすぐ目の前の廊下にクザン大将が座り込んでいた。
「あ、クザン大将。丁度いいところに。私、海軍辞めます」
「……はい?何がどうなってその結論に至ったわけ?」
「いえ、今私に憑いてるポートガス・D・エースを成仏させるには、彼の思い残した事を手伝ってあげるのがいいと言う結論に至りまして。その為には海賊に会わなくてはならず、そうすると私が海軍であるという肩書きはとても邪魔なので、海軍を辞めた方がいいという結論になりました」
「……海賊に会いに行くの?一人で?」
「はい。あ、でも、正確には一人ではなく、二人です。幽霊になったポートガス・D・エースもいますから」
クザン大将は呆れたようにため息をはくと、「他の人間にはそのポートガス・D・エースの幽霊は見えないんだから、一人で会いに行くようなものだとおもうけど?」と言った。
そう言われて見ればそうだ。
そうなると矢張、海軍という肩書きは必要な様な気がする。改めて考えてみれば、海軍をわざわざ辞めなくても、海軍の制服を脱ぎ捨てて私服になってしまえば、私が海軍であるとは誰にもわからない筈なのだ。
しかし、辞めると言った手前それを訂正する気にもなれず、どうしたものかと考えていると、クザン大将の大きな手が私の頭に置かれた。
「ま、丁度俺も海軍を辞めようと思ってたところだし、その、ポートガス・D・エースを成仏させる旅に付き合ってやるよ。名前ちゃん一人じゃ心配だしね」
海軍の最高戦力の一角であるクザン大将が一緒に来てくれるのなら、こんなに心強いことはない。クザン大将のありがたい申し出を受け入れ、辞表を提出するためにセンゴク元帥の元に行けば、なぜかサカズキ大将とクザン大将が喧嘩をおっぱじめる騒ぎになってしまい、パンクハザード島で10日間ずっと本気の戦いをしていた。
10日間も1つの島でずっと一緒にいたのなら、新しい友情でも芽生えそうなものだが、そうでもないらしく、火傷を負った姿で私の前に現れたクザン大将を見て、悪いことをした気分になった。
とにもかくにも、元海軍の私と元海軍大将のクザン大将と幽霊のポートガス・D・エースというなんだか奇妙な3人組の旅がはじまることになった。



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