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今、私が目の前で美味しそうにうどんをすすっている。
"私が"と言ったが、うどんをすすっているのも、美味い美味いと言いながら、クザン大将のご飯にまで箸をのばしているのは私の意思ではない。
私の"魂"といえば良いのか、"意識"といえば良いのかは分からないが、私は私の体から弾き出されてしまっていて、私がご飯を食べている姿を横の方から眺めるという奇妙な状態になっている。
つまり、分かりやすく言うと、私はポートガス・D・エースに体を乗っ取られたのようなのだ。
クザン大将は呆然とした表情でポートガス・D・エースの入った私を見ている。
そりゃそうですよね。自分の彼女が今まで見たことのないくらいの勢いで口の中に食べ物を放り込んでいるのだ。
「名前ちゃん?もう気分は良くなったの?」
ポートガス・D・エースはクザン大将の問いかけに答えることなく、嬉しそうにモグモグとご飯を食べている。
「……名前ちゃん?」
再度クザン大将が私の名前を呼ぶが、やはりポートガス・D・エースは返事をしない。
それもそうだ。中身がポートガス・D・エースの私にいくら私の名前を呼び掛けたって返事をするはずがない。
『……ポートガス・D・エース』
「あん?何だよ」
私に名前を呼ばれてポートガス・D・エースが顔を上げた。
正面にいたクザン大将と目が合う。
「ん?」
ポートガス・D・エースの眉間に皺が寄り、上半身をゆっくりと左右に動かした。
それを不思議そうに目で追うクザン大将。
「……おい、おっさん。もしかして俺の事が見えてるの…か?……ん?あれ?」
『仮にも人の彼氏をおっさん呼ばわりしないでください。それにクザン大将は以外とメンタルの弱いガラスのハートの持ち主だなので、今すぐその言葉を訂正してあげてください。
後々面倒なので』
ご飯を食べるのに夢中で気づかなかったのか、そこでようやく異変に気付いたらしいポートガス・D・エースが口の中いっぱいに頬張っていたご飯を飲み込んで、喉を押さえて軽く咳払いをした。
「…ゴホン!…ん、ん、あ、あー、あー。なんだこの女みてェな声は」
『女みたいというより、女そのものですよ。なにせその体、私のですから』
「……は?お前の体?」
『ええ、だから早く返してください』
困惑した表情のポートガス・D・エースはまず手を見て、次に体に視線を移すと、「ちっせェな」とぼそりと呟いた。
うるさい黙れ。余計なお世話だ。
『余計なお世話です。分かったら早く体を返してください』
「いや、返せって言ったって、俺もどうすればいいかわかんねェしよ」
『……はい?どう言うことですか?だって……私の体を勝手に奪っておいて…』
頭をかきながらばつが悪そうにしているポートガス・D・エースにそういえば、ポートガス・D・エースは「だって、あのときは夢中で……」と呟いたかと思うと、何かを思い付いた表情になり、残っていたうどんの汁を飲み干した。
「ごちそうさまでした」
ポートガス・D・エースはそう言って手を合わせると、しばらく目をつむり、また開け、何かを確認するかのように、手から体へと視線を移動させた。
「……んー……駄目だな。飯が食いたくて食いたくてどうしようもなくて、お前の体を奪っちまったみてェだったから、腹一杯食えば良いのかと思ったんだが、どうも駄目みてェだな」
『駄目みたいって……じゃあ、これからどうすれば……』
「なぁ、お前、誰?」
耳に届いた低い声に、そちらを見れば、クザン大将がサングラス越しからでも分かるくらい警戒した様子でこちらを睨んでいた。
「見たところ体は名前ちゃんみたいだけど、精神は違うよな。お前誰だ?名前ちゃんをどこにやった?いったい何の目的があってこんなことをしている」
「まあ、まあ。そう、警戒すんなって。俺はポートガス・D・エース。今名前にとり憑いてる。名前なら今そこにいるぜ。あと、目的は飯を腹一杯食う事だった」
クザン大将のただならぬ気配を感じ取ったのか、一瞬静かになった食堂がポートガス・D・エースが自分の名前を名乗ったことで、また騒がしくなった。
「おい、今あの女"ポートガス・D・エース"と言ったか?」
「ああ、確かに俺にもそう聞こえた」
「ポートガス・D・エースといやぁついこの間処刑された……」
「ああ、白ひげ海賊団のクルーの…」
「ゴールド・ロジャーの…」
そんな声と共に、向けられる視線に居心地の悪さを感じていると、クザン大将が椅子から立ち上がった。
「ここじゃあ人目がある。ホテルに行くぞ」
「ん、分かった」
ポートガス・D・エースは素直に立ち上がると、クザン大将に続いてお店を出た。



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