06
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ホテルに付き、 部屋の鍵を閉めたクザン大将はベッドに腰掛け「それで?」と改めて話を聞く姿勢に入った。
「いや、だからさっきも言っただろ?飯食いたさにうっかり名前の体を乗っ取っちまったみてェなんだ。返してやりてェのはやまやまなんだが、そもそもどうやって乗っ取ったのか覚えてねぇから、どうすればいいか全然分かんねぇんだよ」
お手上げだとでも言いたいのか、両手を上にあげ肩をすくませて見せたポートガス・D・エースに、 思わずため息をはけば、 なぜかポートガス・D・エースは笑顔になり「面白いな」と言った。
『なにも面白くありません』
「だって、お前ら二人とも同じタイミングでため息はくから面白くってつい」
どうやら緊張感というものがないらしく、そんなことを言ってまた笑ったポートガス・D・エースに頭を抱えた。
『とにかく、どうにかして元に戻る方法を考えないと』
「そうだな。あ!そうだ。俺が飯を食いたくて名前の体を乗っ取っちまったわけだから、お前も何か美味いもん見て、食いたいー!って気持ちになりゃあ、できるんじゃねぇか?」
『……私とあなたを一緒にしないでください』
確かに食欲は三大欲求のひとつではあるが、特にお腹も空いていない今、その方法が私に当てはまるとは考えづらい。
ピシャリとそう良い放った私を見てポートガス・D・エースは眉間にシワを寄せると、クザン対象の向かいにあるベッドに腰かけ、仰向けに寝転んだ。
「……えー。じゃあ、他にどうしろってんだよ。他の方法なんて俺思い付かねえよ。それになんか俺、今すげぇ眠くって……」
呑気にそんなことを言う側から眠りつつあるポートガス・D・エースを見て、何を思ったのかクザン大将がおもむろに立ち上がった。
何をするのかと思って見守っていると、ベッドに横になっているポートガス・D・エースに覆い被さって、それはもう真剣な表情で見つめていた。
「あ?なんだよ重いじゃねぇか……。どけよ」
「もしさ、ここでいたしちゃったら、俺はエースとヤったことになるのかね?」
「……は?」
『……は?』
どういうことかと考えている間にも、クザン大将の顔がポートガス・D・エースの魂が入った私の顔に近付いている。
「いやいやいやいや!おい!お前何急にさかってんだよ!俺は男だぞ!野郎とするような……って、今は女の体だった!」
『……ちょっとクザン大将!何してるんですか!ポートガス・D・エース!あなた男でしょう!なんとかしなさいよ!』
いち早く身の危険を感じ取ったポートガス・D・エースがクザン大将の説得にかかるが、早くも頓挫している。私といえば、そんな二人を見ていることしかできない。
そうこうしている内にも、なんとかクザン大将を押し返そうとしていた手は、気づけばクザン大将の手で頭の上に移動させられ、動かないように押さえつけられている。なんという手際の良さだろう。
「なんとかって言われても今は女の体なんだぞ!……くそっ!何でこんなに力が入らねぇんだよ!名前お前もっと鍛えろよ!仮にも海軍だろ!」
『だって、クザン大将が筋肉のある女性はあんまり好みじゃないって言ってたから……!ってなに言わせるんですか!』
「……あー。久々の名前ちゃんの匂い」
首筋に鼻を当てて匂いを嗅いだクザン大将は、一旦体を離し、悪い笑みを浮かべた。
「体は名前ちゃんなわけだし、浮気にはならねぇよな?」
「……わり、名前。俺、もう、無理」
首筋の匂いを嗅ぐと言う行為が相当気持ち悪かったらしく、ポートガス・D・エースは顔を青くさせて涙目でこちらを見つめた。
『ちょっとポートガス・D・エース!諦めないでくださいよ!クザン大将もクザン大将ですよ!見た目が私ならなんだって良いんですか!この、ケダモノ!』
私の言葉なんて当然届くはずはないのだが、それでも文句を言わずにはいられない。
クザン大将の唇がゆっくりとポートガス・D・エースの唇に近付いていく。
ポートガス・D・エースと言えば、白目をむいて気絶しかかっていて、全くあてにならない。
『だめだめ!やめてください、クザン大将!』
キスなんてしてしまえば、もうクザン大将は止められない。
私とポートガス・D・エースは一定の距離以上離れられないため、二人の濡れ場をずっと見ていなくてはならなくなってしまう。そんなのはごめんだ。
早く何とかしなくてはならない。
せめて行為を阻む壁になれないかと二人の間に割り込む。が、むなしい抵抗に終わった。
「……だから、やめろって言ってんでしょうが!この、バカ上司が!」
体勢を整えるために勢いを付けて上体を起こせば、ゴンという鈍い音と共に額が強烈な痛みに襲われた。
「いったぁー!」
思わず額を押さえてそう叫び、痛みで涙が溢れた。涙でぼやける視界で、ふと、自分の手を見れば、透けていなかった。
ずきずきと、痛む額。なぜかお腹はパンパンで、苦しくて吐きそうだ。視線を移動させれば半透明のポートガス・D・エースが白目をむいて立っていて、クザン大将が向かいのベッドに倒れていた。
何はともあれ、どうやら元の体に戻ったらしい。
「やりましたよ、ポートガス・D・エース!元に戻りました!」
『……ん?……あ?……え?』
意識を取り戻したポートガス・D・エースは事態が飲み込めていないらしく、ぼんやりとした目で私をしばらく見つめると、自分の体と手を見つめて『戻ったじゃねぇか!』と満面の笑みを浮かべた。
『いやぁ、一時はどうなることかと思ったぜ』
「……イタタ。……あ、名前ちゃん元に戻ったんだ」
額を押さえてクザン大将が起き上がって私を視界に入れた。
どうやらさっきの出来事がトラウマになっているらしく、ポートガス・D・エースは体をびくりと震わせると、さっと私の後ろに隠れてしまった。
「……いや、まあ、元に戻って良かったじゃないの」
そう言って私に近付いて来たクザン大将を片手を上げて止めた。
「元に戻ったんなら続きをしても問題ないと思うけど?」
不思議そうにこちらを見つめるクザン大将を睨み付ける。ついでに私の後ろに隠れているポートガス・D・エースも睨んだ。
『……な、なんだよ』
お腹が苦しい。
明らかに食べ過ぎだ。
私の体を乗っ取っていたポートガス・D・エースは、なぜこんな状態で普通に動き回れたのか不思議でならない。
さっき暴れまわったのが原因なのかはわからないが、胃から込み上げてくるのもがあって口を押さえた。
「名前ちゃん?」
「クザン大将はこれからしばらくの間、私から1メートル以内に近づかないでください」
心配して近付いてこようとするクザン大将にそれだけ言い残すと、急いでトイレに駆け込んだ。